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【連載】加藤ジャンプ「今夜はコの字で 全国コの字酒場漂流記」

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コの字酒場探検家・加藤ジャンプさんの連載エッセイです。ドラマ「今夜はコの字で Season2」に登場したお店をはじめ、全国各地のコの字酒場に足を運び、コの字カウンターでの人のふれ… もっと読む
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コの十二 三軒茶屋「伊勢元」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記」

コの十二 三軒茶屋「伊勢元」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記」

漫画の舞台にしたいと思っていた

 東京は世田谷のだいたい真ん中に位置する三軒茶屋。町名は江戸時代に、この町で二つの街道が交わるあたりに、三軒の茶屋があったことに由来する。いまでは三軒どころではなく千軒茶屋くらいに賑やかである。

 田園都市線と世田谷線という二つの東急の路線の駅がある三軒茶屋には、酒場もたくさんあって、コの字カウンターをかまえたところも何軒かある。なかでも、今回訪れた店は、界隈で

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コの十 新橋「美味ぇ津”」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記~」

コの十 新橋「美味ぇ津”」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記~」

久しぶりに二人に会いたかった

 なんだか懐かしい気さえする。ドラマ「今夜はコの字で」シーズン1の放送が始まったのは2020年の1月のことだった。撮影は前年の夏におこなわれた。
 今回訪れたコの字酒場で撮影をした日は、いかにも、日本の夏という日だった。それも、無茶苦茶な炎天というのではなく、湿気のほうの日本の夏。その日はあいにく朝から小雨模様。だが気温はばっちり夏。湿度で人間の輪郭がぼやけるような

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コの九 熱海「ちゅうしんの蔵」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記~」

コの九 熱海「ちゅうしんの蔵」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記~」

飲食店に逆風が吹き荒れるなか船出したコの字酒場

 高崎、松本と内陸がつづいた。だからというわけではないが、次のコの字酒場は海ぞいの静岡県は熱海なのである。私が住む横浜の郊外からだと新幹線こだま号で30分もかからない。自宅から北千住のコの字酒場に行くより早い。ちなみにひかり号は熱海駅に停まらない列車もあるので注意しないといけない。
 
 最後に熱海に行ったのは、友人の結婚式だった。会場で20歳くら

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コの八 松本「山女や」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記~」

コの八 松本「山女や」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記~」

"コの字酒場界最強のアマチュア"

 最強のアマチュアと呼ばれる人が各界にいる。すぐ思い浮かぶのはゴルフのボビー・ジョーンズとか将棋の坂田三吉とか。では、居酒屋界の最強のアマチュアは誰だろうか? そう考えて、目指すは長野県は松本なのであった。前回訪れたのは群馬の高崎、そして今度は松本。にわかに内陸にコリはじめている。
 
 新幹線が日本中あちこち走る時代になったが、長野県の場合、長野市には新幹線が

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コの七 高崎「やきとり ささき」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記~」

コの七 高崎「やきとり ささき」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記~」

おのれ、ミュシャ

 東京駅にある東北新幹線の乗り換え口で、編集者のKさんと待ち合わせた。
 ついに、この連載で遠方へ行くのである。おじさん大はしゃぎである。
 下りの東北新幹線の車窓からさいたまスーパーアリーナが消えるころから急に緑やら田んぼが増えてくる。いよいよ旅情を満喫、車内販売でビールに乾燥ホヤでも買おうかと色気が出てくると、
「つぎは高崎」
 と、アナウンスがあってすごすご諦めた。行き先

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コの六 門前仲町「だるま」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記」

コの六 門前仲町「だるま」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記」

ナカチョウの良いコの字酒場

 以前、錦糸町の名コの字酒場でこんなことを教えてもらった。
 私が「モンナカに良いコの字酒場がある」みたいなことを言ったら、向かいの席の粋な感じの人がこたえたのである。
「モンナカじゃなくてナカチョウっていうのよ、モンナカって言っちゃうのは他所の人、俺は両国」
 モンナカあるいはナカチョウとは、門前仲町の略称である。門前仲町は、富岡八幡宮などの門前町というよりは、東京

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コの五 大森「蔦八」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記~」

コの五 大森「蔦八」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記~」

器の中に作られた旨さのビオトープ

 JR京浜東北線の大森駅のホームには土器の銅像がある。東京、大田区大森は日本史の授業でおなじみの大森貝塚が見つかったところだ。その当時はゴミ捨て場でも、何千年もたてば遺跡になる。発見したのは明治時代のおかかえ外国人の一人、エドワード・モースである。モースは日本から帰国した後、米マサチューセッツ州セーラム市の博物館の館長になった。そんな縁から大田区とセーラム市は姉

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コの三 荻窪「カッパ」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記~」

コの三 荻窪「カッパ」 加藤ジャンプ「今夜はコの字で~全国コの字酒場漂流記~」

コの字カウンター界の高峰秀子

 東京は杉並区荻窪は大正から昭和の初めにかけて別荘地として栄えたところだ。やがて数多くの作家・芸術家が暮らすようになった。井伏鱒二の『荻窪風土記』を読むと、トキワ荘みたいに、すごいメンツの家がここらに集まっていたことがわかる。
 いまは別荘なんてないが、かわりに、たくさんの家といい飲み屋がある。いい町である。
 地名の荻窪は咲いていた荻を集めてお堂をつくったとか、窪

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