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#039 ワイン発祥8000年の歴史に根付く、酒宴文化と人情【ジョージア】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~

お名前:外薗祐介さん
ご職業:ツアープランナー、ガイド、メディアコーディネーター
在住地:トビリシ(2015年~)
出身地:神奈川
X:
x.com/siontak
Mail:comegeorgia@gmail.com

「住みたい」と思える国を探して、大陸横断

――ジョージアの前は、台湾に住んでいたんですよね?

 はい。もともと学生の頃から海外をバックパック旅行するのが好きで、新卒で入った東京の会社も、半ば旅費を貯めるために入ったようなものでした。実際にそこは2年半で辞めて、当時興味があった中国語を勉強するために、中国に語学留学に行ったんです。当時の2004年ごろは北京オリンピックや上海万博を控えて、ちょうどこれから中国が強くなると言われていた時期ですね。1年間の留学後は、余ったお金でラオス、インド、タイなどもブラブラした後、中国語を活かせる国への移住を検討し始めました。はじめは中国を考えていましたが、中国語圏の中国じゃない国に住むのも面白いかなと思い、台湾で就職先を探しました。そこでニコニコ動画の台湾版の運営に関わる仕事が見つかって、6年間ほどその仕事をしながら台北で暮らしていたんです。

――6年間も住んでいたんですね。台湾を離れた理由はなんですか?

 一言で言うと、台湾での暮らしに飽きてしまったんですよね。過ごしやすい分、刺激に乏しくなってしまって。その頃には久々にまた長期間の旅行をしたい気持ちにもなっていたので、次に「住みたい」と思える国を探して、ユーラシア大陸を東から西までお金が尽きるまで進んでみることにしたんです。中国からキルギス、ウズベキスタン、カザフスタンと陸路で進んでいきました。その過程で、一番魅力を感じたのがグルジア、今で言うジョージアだったんです。

ジョージアの「マイルドヤンキー」文化

――当時感じたジョージアの魅力ってなんですか?

 ジョージア人の気質ですね。当時のジョージアは『地球の歩き方』みたいなガイド本もなく、ネット上でも日本語の情報は少なくて、「行ってみないとわからない」状況でした。でも、いざ訪れてみると、人々に情の厚さというか、ウェットな人間関係というか、時には面倒に感じることもあるほどの親密さを強く感じたんです。

――とくにそれを感じた出来事などはありますか?

 ジョージア初日からすでに感じました(笑)。ジョージアにはいわゆる「マイルドヤンキー」といいますか、見た目はいかつくても地元愛が強い人が多い気がしてます。私が泊まっていたゲストハウスのオーナーもその地域の元ガキ大将的な存在で、毎日のように地元の友人たちがゲストハウスにお酒を持ち込んで宴会をしていました。彼らはホスピタリティにも溢れているので、私たちのような外国人旅行者も分け隔てなく輪に入れてくれます。そもそもゲストハウスのリビングが宴会会場なのですが(笑)。「お前まだいんのかよ?」なんて言われながら彼らと仲良くなり、気付けばたくさんの友人ができました。

――素敵ですね。でも、人懐っこい人が多くて友達が作りやすい国は他にもありますよね?

 そうですね。でも、それまで旅をしてきた中で、地元の輪の中に入れてもらえて、何度も一緒に飲んで遊んで、その過程でその地域の文化やアート、政治や社会問題についても忌憚なく話せるようになっていく体験はジョージアが初めてでしたね。

ジョージア初滞在時、ゲストハウスで毎夜繰り広げられた酒宴の様子。

舞い降りてきた仕事

――そんなジョージアに移住すると決めたきっかけを教えてください。

 ジョージアは初滞在で既に「住みたい」と思える国でしたが、物価が低く仕事も少なかったので、移住はあまり現実的ではないと考えていました。その頃経済制裁が解かれようとしていて今後の発展が見込まれていたイランや、友人が住んでいて日中英3言語が話せる人材が重宝されていると聞いたイスラエルなど、他の国で就職先を探す拠点としてひとまずジョージアに滞在していました。
 そんなとき、ジョージアに長く住んでいる日本の知人から、日本の中古車をジョージアに輸出する会社を紹介してもらいました。2015年ごろですね。当時、ジョージアは日本の中古車を輸入する障壁も少なく、ビジネスチャンスがありました。その会社はトビリシ(ジョージアの首都)に1人日本人を駐在させたいが、公募してもなかなかジョージアに住みたいという人が集まらなかったようなんです。そんな中、偶然私がジョージアにいたので、オファーをもらったというわけです。

――すごいご縁ですね! すぐOKされたんですか?

 はい、二つ返事でした。ジョージアに住みたいけれど、仕事や収入面だけがネックだったので、日本の給与水準で働きながら滞在できる環境は理想的でした。それを機にジョージアに本格的に移住しました。

旅行は「文化交流」の時間

――今もその中古者輸出の会社で働いているんですか?

 中古車ビジネスの仕事は市場が萎んだので、2017年ごろに終了しました。とはいえジョージアにはそのまま住み続けたかったので、それまで副業としていた旅行業をメインにしました。現在は旅程の提案、宿泊先や移動の手配、観光ガイドなどをしています。あとは日本のメディアの取材協力、番組制作などのコーディネート、必要に応じてライティングや、バイヤーの仕事などもしていますね。

――ジョージアをガイドをする上で、なにか心がけていることはありますか?

 「自分が好きなジョージア」を押し売りしないように気をつけています。旅行者がその国に求めることは多種多様です。ジョージアでも、美味しいワインや古代遺跡、アウトドアなど、旅行の目的は人それぞれです。それぞれが求めるジョージアとの接点を強めるのが私の役割なので、皆さんが求めることをヒアリングした上で提案するようにしていますね。

――なるほど! それでは、一人の旅好きとして「旅行」とはどんな行為だと思いますか?

 訪れる側と迎える側の「文化交流」だと思っています。旅行とは、未知のコミュニティに部外者として一時的に入り込むこと。そして、そこで見聞を広め、それまで知らなかった知識や経験などのインプットを自分のコミュニティに持ち帰る。これは迎える側も同様で、訪れる側から新しいなにかを受けとっているわけです。 旅行というのは、こうしたカルチャーショックをお互いが与えて受け取り合うものだと思っています。なので、ガイドをする時も旅行者が興味のある領域で、できるだけ新しい発見や驚きを得られるように意識していますね。

外薗さん(右)。ジョージアの友人と。

無類の酒好き大国!二日酔いにはスープ!

――外薗さんが一番ショックを受けたジョージアの文化はなんですか?

 とにかくみんなお酒が好きなことですね。ジョージア人はこれまで私が旅行したり住んだりした国の中でも、無類の酒好きが多い国です。ジョージアはワイン発祥地のひとつとして、8000年前からワインをつくって飲んできた伝統と誇りがあります。また、ワイン以外にも、ブランデー、チャチャ(グラッパ)など葡萄からつくられるお酒が多いのが特徴です。
 飲み方としては、その晩飲む酒を一つ決めたら、その酒だけを飲みつづけることが多いのが、ユニークだなと思います。

 ――なんと……! 飲み会で同じお酒を飲み続けるんですか!?

 そうなんです。日本では最初にビールを飲んで、その後にワインなどへ移っていくことは普通にあると思うんですが、こちらはビール→ワイン→チャチャのようにお酒を変えることはあまりしません。一杯目がワインなら、ワインを飲み続けるんです。

――面白いですね。飲み会のスタイルにも特徴があるのでしょうか?

 「スープラ」と呼ばれる宴会のスタイルがあります。スープラの間、乾杯のタイミングを調節しつつ、乾杯のたびに音頭とスピーチをする「タマダ」という役割の人がいるんです。家族への感謝や新しい出会い、亡くなった仲間への追悼や、生まれてくる子どもへの祝福など、様々なことに乾杯を捧げるんですが、タマダはその乾杯のテーマにあわせた短いスピーチを挟みます。このスピーチでスーツをまとめて盛り上げられるのが、よいタマダです。そして、よいタマダがみんなを一つにして盛り上がったスープラの後は、みんなひどい二日酔いを迎えることが多いです(笑)。でも翌日の午前中にもう一度集まって、みんなで小籠包に似た「ヒンカリ」を食べたり、「ハシ」「チヒルトゥマ」と呼ばれる二日酔いを癒やすとされるスープを飲みながら、チャチで迎え酒をして解散するんです。一緒に飲んで語らい、翌朝も一緒に二日酔いを癒すまで付き合うのが、ジョージア人の酒付き合いなんです。

友人宅でのスープラの様子。
二日酔いに効くといわれる鶏のスープ「チヒルトゥマ」。
ブドウを原材料とした蒸留酒「チャチャ」。

まだ見ぬジョージアの魅力

――ジョージアはどんな人におすすめの国ですか?

 新奇さを求めている方におすすめですね。ヨーロッパとアジア双方の雰囲気も併せ持ちながら、中東にもなんとなく近いような、既存の国に喩えづらい独特の空気感を持った国だと思います。なので、ヨーロッパやアジアでの旅行に飽きてきた人には特に良いかもしれません。

——最後に、日本の読者にメッセージをお願いします。

 これからもいろんな方々にジョージアとの接点を持ってもらえるようがんばっていきたいです。あえて個人的なことを言うと、私がジョージアに住み続けているのは、「まだ見ぬジョージア」を探求するためでもあります。昔に比べたらこの国にかなり詳しくなってきたとは思いますが、旅行者の方を案内する過程で、自分の関心だけでは出合えなかったジョージアの新たな一面に気付かされる機会も多くあります。そういった意味では、皆さんのガイドをする私もまた旅行者なんですよね。一緒に未知に出合える旅をしに、ジョージアにぜひ遊びにいらしてください。

トビリシの秋祭りの様子。

取材:2023年9月
写真提供:外薗祐介さん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです

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聞き手

おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。

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