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講談社現代新書編集長・青木肇さんと語る「新書の世界」

note読者のみなさん、こんにちは! インターナショナル新書編集長の土屋です。
「インターナショナル新書創刊5周年 特別企画 編集長対談」というわけで、講談社現代新書編集長の青木肇さんとオンラインでお話をさせていただきました。青木さんをはじめ、講談社現代新書編集部のみなさんが日々どのように新書を作っているのかを聞き出したく、対談のはずが質問攻めにしてしまいました。

土屋:本日はどうもありがとうございます。先輩新書編集長である青木さんにいろいろと伺っていこうと思います。

青木:創刊5周年おめでとうございます! でも何だか「お白洲」に引き出されたような気持ちです。お手やわらかにお願いします。

土屋:あはは。

■昨年読んで面白かった新書は?

土屋:先ごろ「新書大賞」が発表されましたが、2021年に刊行された新書で、青木さんが面白いと思ったものは何でしょうか?

青木:その前にちょっといいですか。「新書大賞」についてなんですが、最近の講談社現代新書って、なぜか2位が多いんですよ。『未来の年表』『民主主義とはなにか』『生物はなぜ死ぬのか』と。この前、思いあまって販売担当に「2位じゃダメなんですか?フェア」を開催してくれ!と言って即却下されましたけど(笑)。

土屋:2位でも、インターナショナル新書の現状からみるとうらやましいです。でも「2位じゃダメなんですか?フェア」は面白いアイディアですね(笑)。

青木:狭い業界なんだから、あまり事を荒立てるなと20代の若い販売担当に怒られました。それで話を戻しますと、昨年、面白いと思った新書ですが、それはもちろん、橋本幸士さんの『物理学者のすごい思考法』ですね。具も皮も余らせないギョウザの包み方のはなしとか、学者さんと身近な問題を結びつけるという。

土屋:インターナショナル新書から挙げてくださるという……。お気遣いをありがとうございます(笑)。この本、ひじょうに人気で、現在8刷りまでいってます。私たちもこの本で「科学者によるおもしろエッセイ」という、ちょっとした小さなジャンルが拓けたような気がしています。

青木: 作り方が上手いですよね。著者のキャラクターもしっかりと出ていて。理系の学者さんも親しみやすさと個性の時代だと思います。『生物はなぜ死ぬのか』の小林武彦先生は、演劇をされていたことがあって、お話がすごく面白いんですよ……と、さりげなく自社本のPRも……(笑)。
親しみやすいけど、本格的な内容の「理系エッセイ」の人気はまだ続くかなと思ってます。

■現代新書のオビはなぜ長い?

土屋:先ほど三省堂書店神保町店さんに行ってきたのですが、講談社現代新書では、佐藤優さんと池上彰さんの『激動 日本左翼史』と『生物はなぜ死ぬのか』の2冊が新書のベスト10に入っていました。ベストテン常連ですね。
(ちなみに、インターナショナル新書は『英語の新常識』が6位にランクインしてました)

青木:ありがとうございます!

土屋:講談社現代新書さんはタイトルが短めと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

青木:伝統と格式のある中公新書さんや岩波新書さんはそのものズバリ!のタイトルが多いですよね。『応仁の乱』とか『独ソ戦』とか。これが成立するのは、やはりブランド力もあるのかなと思います。
約6年間、新書の編集人を経験して、タイトルの文字数が多いからといって読者に本の概念がそのまま伝わるわけではないと感じることがよくあります。最近の現代新書はタイトルは短め、『〇〇の〇〇』というくらいで、読者に「あれ?なんか面白そうだぞ」と思ってもらえるぐらいのものがいいと思っています。
もう少し言うと、説明しないと伝わらないもの、読者がイマジネーションを働かせる余地があるもの、と、タイトルには2つ方向性があるとも思っています。

土屋:参考になります。編集者として「本の内容を説明したい」という気持ちと、読者目線とをどう折り合いをつけるか、毎回、本当に悩むところなので。
ところで、現代新書は見た目がすごく印象的です。長オビで、どの本も個性的ですよね。オビはどのように作っていくんですか?

青木:まずは担当編集者がラフを描いて、その後、私も加わり、デザイナーさんと打ち合わせしながら詳細を詰めていきます。実は、担当デザイナーの中島秀樹さんが先日、急逝されまして……。本当に残念でした。
生前、中島さんは「新書で長オビを最初にはじめたのは自分」と仰っていました。私もここに配属されるまで知りませんでしたけど、現代新書は、新書界の長オビのパイオニアらしいんですよ。

土屋:そうだったんですね…。『はじめての催眠術』は、現代新書のトレードマーク(?)である、真ん中の四角がウネウネとしたデザインになっていて「面白い!」、でも「マークに手を入れるの?」と驚きました。

はじめての催眠術

青木:実は『はじめての催眠術』の四角い部分のあの模様は、雰囲気重視で催眠術とは関係がありません(笑)。オビは制約がある分、腕の見せどころでもありますよね。四角の部分も工夫によって攻めることができます。中島さんの遺志をついだデザイナーさんと二人三脚でこれからもがんばっていきます。

■これは一本取られたな

土屋:新書の編集者として「これは一本取られたな」と、感心するようなものに出会うことがあると思いますが、実際、どうですか?

青木:ここ数年で言うと、出口治明さんの『自分の頭で考える日本の論点』(幻冬舎新書)ですかね。出口さんには、現代新書からも『還暦からの底力』を出していただいてますが、著作の多い出口さんに次に何を書いてもらおうかと、ものすごーく悩んだことがあります。『自分の頭で考える日本の論点』は、出口さんの思考の過程を本にしていて、「過程を見せる」という、「あ、うまい、そういうやり方があったか」と……。

土屋:私も「新古典」のようなテーマで読書案内をお願いできないか考えたことがあるのですが、すでに読書案内的な本も多く出されていて、どう差別化できるのか、斬新な切り口が見つけられず断念したことがあります。ほかにありますか?

青木:ちょっと偉そうな言い方で恐縮ですが、僕が編集長になってから現代新書は「ベストセラーもロングセラーも両方作る」ということを目指してやっています。ロングセラーは、従来の現代新書の伝統的な教養もの。一方ベストセラーは、ジャーナリズム、ノンフィクションなど時事的なものと考えています。そういう部分では、斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』(集英社新書)みたいなベストセラーとロングセラーを兼ね備えたタイトルは、これは、一本取られたな、と。

土屋:「ベストセラー」のためのジャーナリズム、ノンフィクションは、まさに青木さん色ですね。

青木:とんでもない! ジャーナリスティックなものに興味があるのは、僕は「月刊現代」という月刊誌の担当が長かったからです。はっきり言って、僕は教養についてはド素人。でも、現代新書の編集長になって、優秀な部員たちがいるのでロングセラーの教養新書はこれまで通り量産できる。じゃあ、僕に求められている仕事は一般新書的なもの、学術系ではない著者の方に「も」書いていただく、ベストセラーも作っていくことだと割り切っています。

■不易流行と唱える

土屋:新書の編集長として、ほかに心がけていることはありますか?

青木:すごく難しいんですけど、毎月定期的に刊行するので、毎月出す本をバランスよく揃えることでしょうか。たとえば4冊だったらベストセラーを狙えそうなもの、現代新書らしい教養もの、そして最近の流行ものや冒険的なもの、などで揃えられたらいいなと。これは月刊誌で4本の特集記事が並んでいるような感じでもあります。狙いが当たって『未来の年表』のようなベストセラーが生まれると楽しいですよね。とはいえ、読者にとっては自分が買いたいのは通常は1冊なので、あまり関係ない話かもしれません。

土屋:青木さんは、けっこう「バランス」というものを重視されているような気がします。

青木:福岡伸一さんの「動的平衡」……と言ったら怒られるかもしれませんが、少しずつ変ってはいくけれども現代新書にとっての大枠は絶対に変えないということを重要視しています。時代の趨勢に応じた企画は考えていくけれどもウチの従来のラインナップからあまりにも外れたものは出さない。現代新書というブランドとして、どこにそのラインを引くべきなのかはずっと考えています。
新しいことをやろうとすると必ず摩擦を生むものです。編集長になってからずっと「不易と流行。昔の人だって『古いものと新しいもののバランスが大事」みたいなことを言ってるし」と唱えて、心を落ち着かせてました。

土屋:青木さんは編集者としても優秀で、現代新書には『未来の年表』のようなビッグヒットもあるし、自信満々なのかと思っていました。私が編集長として不安な気持ちを抱えていてもおかしくないんだ、と安心しました。とはいえ、守るものがあるのがうらやましくもあります。インターナショナル新書はそれこそ現在も模索中ですので。

青木:いやいや、これからいくらでも新しい風を吹かせることができるということではないですか。

土屋:前向きになれるアドバイス、ありがとうございます。ぜひ新しい風を吹かせたいです。
では、最後に、現代新書の近刊で青木さんのイチオシを教えてください。

青木:千葉雅也さんの『現代思想入門』です。千葉さんが、現代思想という難しそうなテーマをスパスパと読み解いていくのですが、これがすごくわかりやすくて、内容がしっかりしていて、すごい本なんですよ。「二項対立から離れて考えよう」とか「世界は無数のシーソーでできている」とか、僕みたいに現代思想とは無縁の人間でも現実社会と結びつけて理解できる。大澤真幸さんの『社会学史』の時にも感じましたが、僕はこういう本を出したくて編集者になったのです。残念ながら2冊とも僕が担当ではないですけどね(笑)。

土屋:私の苦手な分野ですが「スパスパ読み解く」に惹かれました。わかりやすいはそれこそ新書の神髄ですよね。ぜひ、『現代思想入門』を読んでみたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

後記:青木編集長からお話を聞いて、「うらやましい」を連呼してしまいましたが、講談社現代新書さんの歴史は50年以上、かたやインターナショナル新書はまだ創刊5年目のヒヨッコ。どんどん新しいことにトライしながら「インターナショナル新書」という読者に信頼される独自のブランドを作っていきたいと思った次第です。ひじょうに励まされました。(土屋)


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