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#018 建物をつくらなくなった建築家【スイス】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~

お名前:和田 徹さん
ご職業:建築家
在住地:バーゼル(1995年~)
出身地:東京
ホームページ:
https://www.ateliertoruwada.com/

日本の教育に追いつけず、スイスへ出戻り

――スイスとの出合いを教えてください。

最初は小学校3年生の時です。父親の海外赴任先がスイスだったので、それについて来ました。親が海外赴任してきた子どもは、普通はインターナショナルスクールとかに入れられるんですけど、ぼくの場合は現地校に入れられました。言葉もわからないので、最初はぼけ〜っと通ってたんですけど、それくらいの歳だと耳で言葉を覚えられるので、徐々に身についていきましたね。そして、中学1年生の時に親の海外赴任が終わって、一度日本に帰りました。でも、すぐまたスイスに戻ってきました。

――なぜすぐ戻ったんですか?

日本の学校で落ちこぼれたんです(笑)。日本にいざ帰ってみたら、周りの子はみんな塾とか行ってるんですね。ぼくは日本語すらおぼつかないし、全然授業についていけなかった。唯一の楽しみが部活のバスケでしたね。バスケは言葉がいらないですから。そして、授業中はほぼ寝てました。
ある日、そんなぼくを見てた親から「どうしたい?」って言われたんです。さすがに自分でもヤバい状況だと思ってたので、「スイスに戻れたら戻りたい」って言ったんです。それで親が移住を決心してくれて、わずか半年間の日本生活を終え、スイスに戻ったんです。

――すごい決断の早さですね。スイスの方が合っていると感じていたんですか?

合ってるかどうかというより、消去法ですね。日本の教育についていけない(笑)。「スイスの方がましかな」っていう感覚ですね。それが1995年なので、もう30年近くスイスに住んでることになりますね。

スイスでの少年時代(3列目、一番左が和田さん)

アイデンティティを探して日本へ逆留学

――現在は建築家ということですが、建築はスイスの大学で勉強されたんでしょうか?

そうですね。建築士の資格は修士までいかないととれないので、スイスの大学の学部と修士課程で建築を学びました。でも、実は日本に交換留学にも行ってたんです。

――半年間でギブアップした日本へ! なぜですか?

中学の時にやさぐれて日本を出てしまったという後悔もありましたし、あとはアイデンティティの問題ですね。思春期に日本からスイスに戻ったので、それ以来「自分は日本人なのかスイス人なのか、はたして何者なんだろう」っていう悩みもありました。自分探しの旅みたいな感じです。あと単純に「逆留学おもしろそう」って思いました(笑)。

――スイスの大学と日本の大学では、何か違いを感じましたか?

日本の大学にカルチャーショックを受けました。スイスの大学は受験がない分、単位を取るための試験がめちゃくちゃ難しい。入学してから死ぬほど頑張らないと卒業できないので、遊ぶ時間はないんです。一方、日本の大学生があまり勉強してなくて驚きました。東京大学に留学したんですけど、「これで日本一の大学なのか」っていうくらい、授業中に寝てたり、そもそも全然学校に来ない学生も多くて、ちょっとガッカリしたことを覚えてます。もちろん分野によっては凄いと思うので一概には言えないですが、日本の大学ランキングが伸びないのもなんとなくわかる気がしました。

――なんだか耳が痛いです(笑)

東大留学中の様子

「普通に建物をつくっている場合じゃない」

――お仕事について教えてください

スイスのバーゼルというところで働いています。以前は建物の設計などをしてましたが、今はどちらかというとアートディレクションや展示構成だったり、空間デザインに近い仕事を中心にしてますね。
例えば、書道家の武田双雲さんなどの日本人アーティストが海外で展示をする時に、作品を預かってこちらのアートギャラリーに提供したり、展示を構成したりと、建築家としての知見を生かして言語や文化の壁をこえるサポートをしています。こっちでこういう仕事をしている建築家は、あまりいないんですね。

――仕事の幅を広げている理由はなんでしょうか?

こうした仕事の方が自分は人の役に立てると思うんです。日本からスイスに渡った生い立ちや、その過程で複数の言語を話せるようになったこと。そういった経験と、建築家としてのスキルを掛け合わせたら、普通に建物をつくってる場合じゃないなって思ったんです。
スイスでは建築家という職業はけっこう食っていけるというか、社会的なランクも高いので、安定した仕事です。でも、それよりも日本とスイスを繋いでいく役割、日本の企業のアテンドだったり、建築ガイドや、アーティストのサポートなどを行う方が意味があると思ってやってますね。

和田さんのお仕事例(空間デザイン)

建物は古いほど価値が高い

――スイスと日本の建築文化の違いはありますか?

日本の建築は、外の環境にどう馴染ませるかという視点があります。なので、建物は環境に応じて柔軟に対応し、変化していくものとされています。一方スイスは、外に対して囲いをつくって、中をどうするかという考え方がベースにあります。スイスの建物に中庭が多いのは、その象徴だと思います。

――建物自体のつくりも全然違うんですか?

それぞれの街並みを見比べたときに一番わかりやすいのは、スイスは隙間がないってことですね。日本は建物と建物の間に隙間や塀や囲いがありますよね。でもスイスは建物の間がびっちりつまっているのが特徴です。
そして、建物を隔てる壁は、両方の家が共有しているものなんです。2軒の家を建てるとしたら、壁を4つつくるより、3つで済ませた方がコスパがいいですよね。
日本の場合は耐震性能を上げるために一軒ずつ隔ててつくっているというのもあります。一方、スイスなどのヨーロッパは中世の戦の時代にそれぞれの国や王様がつくっていた砦が背景にあります、砦は敵が入り込めないよう、隙間なくつくられていました。その名残が今でも残ってるんです。

――隣の家と壁を共有するって面白いですね。中世の砦の影響が強いということは、古い建物も多いんですか?

そうですね。日本の建物の寿命は25年くらいですが、スイスは60年くらいです。石畳やレンガなどの固い素材でつくって、長いスパンで使うので、リノベーションが主流です。築150年の建物がざらにありますね。建物の価値も、日本だとタワマンとかの新築が高いけど、スイスは古ければ古いほど高い。古くて小さな物件でも、家賃が200万円とかします。
だからか、日本に帰るたびに目まぐるしく街の景色が変わっているのを見るのは面白いですね。

――ほかに生活面で感じた文化の違いはありますか?

スイスの人が16歳からビールをがんがん飲むのには驚きました。スイスは成人年齢が18歳で、タバコも飲酒も基本は18歳からなんです。でも、「ビールは16歳からオッケー」という謎のルールがあって、バーとかビアガーデンもその歳から行けちゃうんです。こっちの人はお昼から普通にワインを飲んだりするくらいお酒が強い人が多いので、別に大丈夫なんでしょうけど、日本で16歳からオッケーにしちゃうと大変そうですよね(笑)

古い建物がびっちりと並ぶ、バーゼルの街並み。

「論より行動」

――今後について教えてください

軸は変わらず、スイスと日本の架け橋になっていけたらいいなと思います。建築や文化含めて、分野を問わずに両国の繋がりを作っていけるようにがんばりたいです。

――海外移住を検討している方に何かアドバイスがあれば教えてください

もし行ってみたいという方がいるなら、ぜひ「今」動いてほしいなと思います。この記事もいろんな国の文化や世界に触れるきっかけになると思うので、これを機にいろんな国に行って、見て触れて感じてほしいです。そうすればきっと、外国も日本ももっと好きになると思います。論より行動ですね。

取材:2023年2月
写真提供:和田 徹さん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです

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聞き手

おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。


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