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#024 ヨーロッパ随一の芸術の街で暮らす、歌手兼女優兼劇場支配人【オーストリア】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~

お名前:岡﨑麻奈未さん
ご職業:歌手、舞台女優、劇場支配人
在住地:ウィーン(2007年~)
出身地:埼玉
個人ホームページ:
http://www.manami-okazaki.com
劇場ホームページ:
https://www.theaterarche.at/

コンサートで歌う麻奈未さん

憧れと直感に導かれてヨーロッパへ

――日本の音大卒業後にオーストリアに行かれたとのことですが、どういったきっかけがあったんでしょうか?

 最初はヨーロッパへの憧れですね。あとは直感。
 小学生のころから「自分は音楽家になる」っていう不思議な確信がありました。最初はピアノからはじめて、高校からは声楽に変わって、「私は歌手になって絶対に舞台に立ち続ける!」って言い張ってたんです。ヨーロッパへの憧れも年々膨らんで、大学を卒業する頃にはなぜか「ウィーンに行く!」って言ってました。
 そこから声楽のマスターコースをきっかけにウィーンに渡って、オーディションに受かって、歌手としての活動をはじめました。当初はオーストリアについて何も知らなかったので、モーツァルトみたいな髪型の人がいっぱいいるもんだと思ってました(笑)。

――すごい古い時代のイメージだったんですね(笑)。実際はどうでしたか?

 古い建物がたくさん残っていて、とっても魅力的な国です。歯医者さんが入っているようなビルも美しくて、階段ひとつとっても非常に綺麗です。カフェハウスなんかは貴族の館みたいで、お姫様気分になれますね。とくにウィーンは歴史的な建物が多く残っていて、わたしは大好きです。髪型は普通でしたね(笑)。
 あと、ドイツ国内を転々としながら活動する時期があって実感したんですが、ドイツ語の発音はドイツよりもオーストリアの方が好きですね。

――ドイツとオーストリアでは話し方が違うんですか?

 これは私の感覚なんですが、ドイツ人の方々はすごく口を開けてハキハキ話します。私の耳には少し角が立って聞こえ、やや耳に負荷がかかる印象です。一方のオーストリアは、いい意味でのダルさが残る、柔らかい響きなんです。その影響か、私の場合はドイツ語の歌を歌うときもオーストリアの響きを意識すると、とても歌いやすいんですよね。

歴史を感じさせるウィーンの街並み

新しい芸術が生まれ続ける理由

――ほかには、ウィーンにはどんな魅力があるのでしょうか?

 古いものを大切にしながら、新しいものを発展させていくところですね。伝統的な芸術はウィーン国立歌劇場などが担い、それ以外は基本的に「新しい試みを大切にしてください」っていう方向でこの国の芸術は動いています。基本的に国は新しい試みにしか金銭的支援をしないんです。実際に、国立歌劇場以外のオペラは初演のものが多いんです。
 こうした環境なので、若い芸術家たちはこれまで誰もやっていない新しいことを積極的に試みるようになります。そのおかげで新たな芸術がどんどん発掘され、表舞台に出てくる仕組みになっています。

――素晴らしい取り組みですね!

 はい、そうやって新鮮な感覚の芸術が日常の中に溶け込んでくるんです。街のいたるところに、新しい劇や催し物のポスターが次々と掲示されています。電車内の広告も、日本では企業の広告が多い印象ですが、ウィーンは劇場や美術館の広告で溢れています。ウィーンの人々にとって、芸術は生きていく上でなくてはならないものなんです。

クラシック歌手をしながら劇場を経営

――ウィーンでは最初に歌手として活動を始められたとのことですが、現在ではどんなお仕事をされているのでしょうか?

 引き続きフリーのクラシック歌手として、「オペレッタ」や「ウィーンリート」と呼ばれるウィーンの民謡をコンサートで歌っています。あとは「アルヒェ劇場」という劇場を経営しつつ、舞台女優としても活動しています。

――劇場経営と女優まで!

 舞台女優は、経営している劇場の立ち上げに関わったことがきっかけですね。ウィーンには小さな劇場がたくさんあります。ある時、新たに劇場を作ろうとしているオーストリア人男性のヤクプさんと知り合って、彼には人もお金も足りなかったので私も手伝っていたんです。そこが主に演劇を上演する劇場だったので、「Manamiもやってみない?」と誘ってもらいました。当時はドイツ語で演技をしたこともなかったんですが、小さい役からはじめて2019年には一人劇をするまでになりました。

――すごいですね。劇場の経営はどんなお仕事をされているんですか?

 マーケティング全般を担っています。先ほどウィーンでは新しい芸術を推進しているという話をしましたよね。うちの劇場でも初演の作品しか上演しないので、作品のコンセプトや内容が決まったら、国や市からの助成金をもらうために行政とやり取りをします。他にもメディアやお客さんへのプロモーションもやっていますね。でも一番大切なのは、出演者とのコミュニケーションや調整です。私たちは劇場として、彼らは出演者として、それぞれ色んな想いでやっているので、それを受け入れながら良い作品が生まれるようにいつも調整しています。そう簡単ではないですけどね(笑)。

――歌手や女優とは全く違うお仕事のように感じるんですが、劇場経営ならではの面白さや難しさはありますか?

 根本は同じです。私の生き方そのものでもあるんですが、「人と喜び合えること」をしています。お客さんも含めてみんなで一緒に楽しんで、喜ぶ瞬間が私は大好きです。自分が歌うときも演技をするときも、演出をしてくれる人がいて、メイクをしてくれる人がいて、衣装を作ってくれる人がいて、それではじめて成功します。自分はその作品のほんの一部でしかないんです。そうやって色んな人たちと作り上げた作品の成功を一緒に喜ぶ。それが面白さですね。

アルフェ劇場の舞台に立つ麻奈未さん
公演後、劇のスタッフたちと

国が芸術家を守っている

――日本とオーストリアの芸術界に違いは感じますか?

 オーストリアでは芸術家が守られていると感じますね。例えば、こちらでは芸術家に支払わなければならない給料基準のリストがあるんです。芸術家を守る協会がつくったものです。劇でいえば、リハーサルは何時間でいくら、初演はいくらで、3公演目からはいくらか、金額が全て決まっています。

――そこまで徹底されているのは、すごいですね。

 そうですね。しかもその基準は、舞台に立つ人だけでなく、作品に関わるいわゆる裏方の人々にも適用されます。衣装や演出やPR、アシスタントまで含まれます。ただ、私は劇場を運営する立場で、支払う側にもなるので大変ですけどね(笑)。あと、日本と大きく違うのは、演者は上演期間は劇場に所属することが法律で定められている点です。つまり、みんな雇用されている状態になる。これも芸術家を守るための仕組みのひとつですね。

――日本よりずっと芸術家が守られていると感じます。

 間違いないですね。芸術家向けの保険もあったりと、日本よりも芸術家を守る仕組みと活動しやすい基盤が整っている国だと思います。

ウィーンに行ったらサーロインステーキ!?

――生活をする中で文化の違いは感じますか?

 食べ物が大きいです! ピザでもケーキでもすごい大きいです。こちらの生活に慣れると、日本に帰って食べ物を頼んだときに「え? これだけ?」って驚くようになりますよ(笑)。

――食べ物のサイズは意外でした! せっかくなので、岡﨑さんのおすすめの料理があれば教えてください。

 ウィーン風ステーキですね。名前は「ツヴィーベルローストブラーテン」。ステーキの上にデミグラスソースと、カリカリに揚げた玉ねぎがのっていて、お酢につけたきゅうりと、卵焼きとフライドポテトが添えられたもの。これが、すごく美味しいんです。日本からお客さんが来る時はよく案内します。私のおすすめは、オペラ座の近くにある「プラフッタ」っていうお店です。ぜひ行ってみてくださいね。

ウィーン風ステーキ「ツヴィーベルローストブラーテン」

「人に頼る」ことが大事

――これからの人生でなにか挑戦を考えている人に、メッセージはあるでしょうか。

 人に頼ってほしいですね。自分がやりたいことを人に話す勇気を持ってほしい。日本の人たちを見ていると「いい子」でいる為に、自分のやりたいことを内に溜め込んで我慢してる印象をおぼえます。もっと人に話して、どうやったら実現できるかアドバイスをもらったらいいと思います。そこから開かれてく可能性はきっとあるから。

――今後のご活動について教えてください。

 音楽や芸術を通じて日本とオーストリアを繋げていきたいですね。最近では、同じ志を持った大阪弁を話すウィーン出身の女性ハープ奏者・ソフィーさんと『Arcophonie(アルコフォニー)』というデュオを結成しました。日本とオーストリアのそれぞれの民謡などを再解釈して届けています。例えば、日本のお正月によく耳にする「春の海」は琴と尺八で演奏されますが、琴の音色をハープ、尺八を私の歌に置き換えて表現したりしています。2024年の10月には日本でコンサートも予定しているので、ぜひ楽しみにしていただけると嬉しいです。

取材:2023年5月
写真提供:岡﨑麻奈未さん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです

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聞き手

おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。


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