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#015 残業なし、本とビールにあふれた国【チェコ】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~

お名前:めばえさん
ご職業:日系企業人事
在住地:ピルゼン(2020年~)
出身地:北海道
めばえさんが参加しているInstagram:
https://www.instagram.com/_kaprvevane_/

大学で「なんとなく可愛い」チェコ語を専攻

――チェコとの出合いを教えてください。

東京の外国語大学でチェコ語を専攻していました。入試のタイミングで専攻言語を選んで出願しないといけないんですけど、その時に選んだのがチェコ語でした。

――いろんな言語がある中でなぜチェコ語を?

なんとなく可愛いなと思ったのが理由です(笑)。
大学の専攻言語が27もあって、当時は海外旅行も行ったことなかったですし、地元の北海道から出た経験もほとんどありませんでした。ただ、漠然とヨーロッパに憧れがあって、その中でもドイツやポーランド、チェコが気になってたんです。ドイツは研究している人や学んでいる人も多いので、せっかくなら珍しい方がいいかなと思って、ポーランドとチェコで悩んで、なんとなくチェコ語の方が可愛いなと。
他の同級生はチェコに縁がある子も多かったんですけど、私の理由は「なんとなく」。なので当時は、「4年間学んでみて合わなかったらやめればいいや」っていう気持ちでした。

自分らしく生きられる居心地の良さに惹かれた

――移住の経緯を教えてください。

大学を卒業してから、もっとチェコについて勉強したいなと思って、チェコの大学院に進んだんです。それが2020年の夏ですね。大学院に2年間通ったあと、そのまま移住しました。

――当時は「なんとなく」選んだチェコ語だと思うんですが、大学院までいこうと思った心境が気になります。

実は、大学2年生くらいまではチェコ語が大嫌いだったんです(笑)。
チェコ人の友達がいるわけでもないし、ひたすらテストのために勉強している感覚でした。当時はそれがけっこうきつくて「なんでこの言語にしたんだろう」って後悔してたくらい。
ただ、2年生の夏に短期留学で初めてチェコを訪れて、その感覚は変わりました。チェコの風景や、現地の人と関わったり、実際にチェコ語がどう使われているかを間近で見ることができて、「もっと勉強してみたい」と思うようになったんです。

2016年、短期留学で初めて訪れたチェコにて

――やっぱり実際に現地に行くって大事なんですね。そのまま「住みたい」と思った理由は?

分類すると3つあるなと思ってます。
1つ目は現地の風土ですね。ヨーロッパの気候は北海道と似ていて、私にとってはとても住みやすいんです。
2つ目に言語文化。チェコ語って日本語と全然文法も異なるんですが、言語としての性格? が似てる部分があって面白いんです。例えば「敬語とタメ口」みたいに、相手によって話し方を変えたりするんです。言語の研究という視点でも楽しかったです。
3つ目は国民性ですね。自分の意見を隠さずにはっきり言うことができるフラットな社会な気がしています。敬語みたいなものはありますが、変にかしこまる必要がないんです。嫌な時にNOと言える、議論好きな一面もあるので自分の意見を持ってそれを言い合うことができるのは心地よいです。一方で、他のヨーロッパの国と比べるとちょっと内気な一面もあって、そういうところも個人的には馴染みやすくて、暮らしやすいと感じています。

――大学院を卒業してそのままチェコに移住されたんですよね。いきなり海外で生きていくって心理的なハードルは高くなかったですか?

チェコの方が、自分らしく生きられて、居心地の良さを感じてるんだと思います。もともと私は引っ込み思案で、人の目を気にする性格でした。違和感があっても自分の意見を全然言えなくて、周りに合わせるというか、同調圧力の強い日本社会にけっこう浸ってた部分があったんです。それがチェコに来て少し変わったというか。今でも覚えてるのが、チェコの友人とご飯を食べにいったときのことです。「私もそれにする」って友人と同じメニューを選んだら、「あなたいま、周りに合わせたでしょ」ってその友人にパッと指摘されたんです。

――うわ、鋭い指摘ですね。

そうなんです。指摘すること自体にも驚いたんですが、私自身が無意識に人に合わせていたこと、それ自体に自分で気づいていなかったことがショックだったんです。すごく些細な出来事ではあったんですけど、それが今でも心に残っています。こんな感じで「自分の意見を持っていい、自分の選択で生きていい、自分自身を肯定してもいい」というマインドセットにしてくれたのがチェコなんです。
私にとって、チェコでの生活は自分の意識の形成に大きく関わっているというか、大切なことを全て教えてくれたような感覚があるんです。チェコはヨーロッパの中心に位置しているので、いろんなルーツを持つ人がたくさんいます。外見もバックグラウンドも多様だからこそ、日本の「普通」みたいな基準があまり存在しないんです。日本も変わってきていると思いますが、そうした多様性を受け入れる環境だからこそ、外国人である私もビクビクせず居心地良く生活できるんだと思います。

世界中から人が集まる、チェコの首都プラハ

半年で40時間残業したら大問題に

――いまのお仕事について教えてください

いまはピルゼンという街にある日系企業の人事部で働いています。日本から出向で来る方のビザの手続きや、移住後のサポートなどをしてます。日本とのやりとりはありますが、職場は基本的にはチェコ人ばかりなので、使う言語も8割はチェコ語で、働き方もチェコ人寄りの環境になってます。

――チェコの職場環境がすごく気になります。働く中で文化の違いを感じることはありますか?

残業して怒られたのには驚きました。働き始めて半年間で合計40時間くらい残業したんですけど、日本ではそんなに多くないですよね? でもそれが職場ですごい問題になって、上司から直接指導を受けました。

――なんで怒られるんですか?

「あなたには健康に働いてほしいから、このまま体調崩したら大変だし、仕事を嫌いになってほしくない」って言われましたね。でも日本人の感覚でいうと、今日中にやらないといけない仕事がまだ残ってたら帰れないじゃないですか。それを上司に言ったら「帰らないといけないんだよ」って言われました(笑)。あと、「土日に仕事のメールがきたときには、返信しないといけないじゃないですか」って上司に言ったら、「それは返信するあなたが悪い」とも言われましたね。頑張って働けば働くほど怒られるというか。たしかにみんな、定時になるとパッといなくなるんです。これは面白いなと思いました。

――すごいですね。なんでなんですかね。

「仕事が生活を脅かしてはいけない」という意識をとても強く感じます。もちろん仕事は責任を持ってやるんですけど、勤務時間外のプライベートをとても大切にするというか。個人的にも素直に「休みなさい」って言ってくれる環境はすごくありがたいなと感じています。

一人当たり年間182リットルのビールを飲む

――印象的な文化の違いがあれば教えてください。

やっぱりチェコを語る上でビールは外せないです。安い、多い、美味いの三拍子が揃ってます。私はあまりお酒強くないんですが、美味しいので飲んじゃいます。こっちでビールを注文すると樽みたいな大きいジョッキで出てきて、量も溢れるくらい注いでくれるので、すごく魅力的です。

――チェコの人はかなりビールを飲むんですか?

世界一飲みます。ビールの個人消費量のランキングみたいなのを調べてみたら、2020年のデータだと一人当たり1年間で182リットル飲んでるそうです。どれくらいすごい数字かというと2位のオーストリアが97リットルなので、2位の2倍飲んでるんです(笑)。だからビール好きの人が来たら絶対楽しいと思います。街の特産ビールもたくさんあって、私が今住んでいるピルゼンは、世界で一番広く普及しているビールのひとつ「ピルスナー・ウルケル」の醸造所があって、工場見学すると最後に絶対試飲させてくれます。チェコは醸造所巡りもすごく楽しいと思いますね。

ピルゼンのビール工場見学の様子

駅にみんなの本棚がある

――チェコ生活の中で「いいな」と思うことがあれば教えてください

本の文化が盛んなのがいいなと思います。チェコの絵本を一度見ていただけたら、日本との違いに気づくと思います。子ども向けなのに、文章量もページ数が多いんです。絵柄やエピソードにもグロテスクなところがけっこうあって、それを隠さずに子どもに見せるのがすごいですし、大人になっても何度でも読み返せるような読み応えのある本が多いんです。図書館に行くと、親と子どもが一緒に絵本を選んでる様子をよく見ます。本との距離がすごく近いなと感じます。

――羨ましい! 大人になってもみんな読書してる感じですか?

読書家は多いと思います。実際に規模の大きい立派な図書館がたくさんあります。電車の中で読書している方もすごく多くて、駅によっては本棚があって、誰でも好きな本を持っていっていいんです。逆に自分のいらない本をそこに置いて、他の乗客の方に手に取ってもらうサイクルもありますね。

――めちゃくちゃいいですね!

日本でも最近自費出版のZINEなどが増えてきたと思うんですけど、チェコも個人出版の文化がとても盛んです。小規模でアクティブな書店や出版社が多いので、本に多様性があります。

めばえさんのお気に入りの出版社BAOBAB刊行の本たち
街の広場で定期的に開かれる古本市の様子

日本の読者に向けて

――チェコはどんな人におすすめですか?

ハンドメイド雑貨や、ものづくり文化にキュンとする方におすすめです。想像力豊かな個人の創作物に溢れた国なので、なんでもありな文化があって本当に楽しいです。本屋に行くと私は何時間いても飽きないですね。本以外にも陶器やマリオネット、レースなど、さまざまな作家さんの創作物を楽しめるので、雑貨屋めぐりもおすすめです。あと、近隣国にくらべて戦争の被害が少なかったので、中世ヨーロッパの景観が残っています。それらを楽しみたい方にもおすすめですね。

短期留学で訪れたオロモウツの街並み。

取材:2023年2月
写真提供:めばえさん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです

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聞き手

おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。


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