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#031 自分にゆるく他人にもゆるい、南の島の幸福論【フィジー】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~

お名前:永崎裕麻さん
ご職業:英語学校校長
在住地:ナンディ(2007年~)
出身地:大阪
英語学校HP:
https://colors-fiji.jp/

「自分の住みやすい街ランキング」をつくるため世界一周

――フィジーと出合う前は何をされていたんですか?

 2年ほどかけて世界一周の旅をしていました。
 出身地の大阪で会社員をしているときにメキシコ旅行に行ったんですが、そこで世界一周している日本人夫婦に出会いました。それまでは「宝くじにでも当たらない限り世界一周なんて無理だろう」と勝手に思っていたんですが、けっこう安く実現できることを知ったんです。そんな時に、たまたま「世界住みたい街ランキング」のデータが目に入りました。その時の1位はオーストリアの音楽の都ウィーンだったんですが、僕は音楽には興味がなかったので「これは自分のためのランキングではないな」と思いました。それなら「自分が住みやすい街ランキング」を旅をしながら作って、最終的に1位の街に住んだらいいんじゃないかと思って、旅に出たんです。合計で約80カ国を巡りました。

――その旅の結果、「住みたい街ランキング1位」になったのが現在住んでいるフィジーのナンディということですね?

 いえ、結局大阪が1位でした(笑)。日本語も通じて、ご飯も美味しい、あらゆる面で出身地が一番住みやすいという当たり前の事実に気がついたんです。

世界一周中の永崎さん。ボリビアのウユニ塩湖にて。

すべらせないフィジアンたち

――では、どうして現在は大阪を離れて、フィジーに住んでいるんですか?

 世界一周を終えたとき、旅の集大成として「世界青年の船(日本政府主催による青年国際交流事業の一つ)」に参加することにしたんです。世界各国から集められた青年たちが船で共同生活をするんですが、どの国の人よりも幸せそうだったのがフィジアン(フィジー人)だったんです。

――どんな様子が「幸せそう」に映ったのでしょうか?

 船の上では彼らのいるところに常に笑いの花が咲いているような状態でした。一番印象的だったのが、みんなで自己紹介をした時です。僕はウケるかなと思って「この前、彼女と別れたんですよ」と自虐ネタを話したんですが、その場の空気が一瞬でシーーーンってなったんです(笑)。でも次の瞬間にフィジアン女性が大爆笑して、周囲を笑いに包んでくれました。笑いのツボが合うのかな? なんて思って、彼女に「僕の話、面白かった?」と尋ねたら、「全然面白くなかったけど、悲しいときこそ笑うべきでしょ」と言われたんです(笑)。

――その場が凍りそうになったのを感じて、楽しい空気にしてくれた?

 そうです。どんな些細な話でも笑いを共有しようとする姿勢が素直に素晴らしいと感じました。日本では「すべらない話」が象徴するように、笑いのハードルが高いですよね。対照的にフィジーは「すべらせない社会」なんです。つまらない話であっても、面白くしようとしていると感じたら、自然に笑いが生まれていく。彼らはいつもそうした雰囲気を作り出すので、いつも周りに人が集まっていました。

――それが移住の理由でしょうか?

 はい。僕としては彼らの文化に触れてしまった以上、この身で体験したい、行かずに後悔したくないという感覚が強かった。脱サラして旅に出た時も、「やりたい」というより「やらないと後悔しそう」が動機でした。なので、船を降りてすぐにフィジーでの仕事を探し始め、翌月にはフィジーの語学学校に内定をもらい、1ヶ月後には現地に移り住んでいました。

英語学習者にとって「最強」の国

――現在のお仕事について教えてください。

 ナンディ国際空港から10分ほどのところにある、カラーズという英語学校の校長をしています。もともとフィジーで最初に働き始めた学校に10年半勤めて退職した後、今の学校のオーナーにお声がけいただいて校長になりました。

――フィジーでの英語学習の特徴などはありますか?

 フィジーは「知らない人に目的なく話しかけられる」ので、英語習得には最強の国だと思っています。世界一周中の経験から、世界の多くの国は「旅行者に無関心の国」と「たくさん声をかけてくるけど、お金目当ての国」の2つに大別されると思っています。ただ、フィジーはどちらでもなく「目的なく話しかけられる国」で、珍しいなと思いました。

――どうしてそんなに話しかけるんですかね?

 子どもがそのまま大人になったような人が多いんですよね。子どもって知らない人にも無邪気に話しかけるじゃないですか。フィジーはおじさん・おばさんになってもそれは変わらない。子どもだけじゃなくて、おじさんでも目がキラキラしてるんです(笑)。だから僕も、以前フィジーの本『世界でいちばん幸せな国フィジーの世界でいちばん非常識な幸福論』を出版した時、子どもではなくおじさんを表紙にしました。

『世界でいちばん幸せな国フィジーの世界でいちばん非常識な幸福論』(いろは出版)

「大不幸」以外はすべて幸せ

――永崎さんは著書でフィジー独特の幸福感について書かれていますが、日本とフィジーの「幸せ」の捉え方にどのような違いがあると感じますか?

 フィジーでは幸せな状態がデフォルトだと思います。移住して間もない時、フィジー人に「いま幸せですか?」というインタビューを実施したことがありました。その中で、ある25歳の男性が“I am not unhappy. My family is not unhappy. So we are all happy.”って言ったんです。つまり、「不幸でないなら、それ以外は幸せである」ということですね。フィジーは日本に比べて寿命も短いし、家族・友人が多い傾向にあるから、親しい人が死んで悲しむ機会は多いんです。そうした大きな不幸が身近にあるからこそ、小さなことで不幸を感じない。むしろそれ以外は幸せだろうという達観的な姿勢があると思います。

――日本で暮らしているとデフォルトでは「幸せ」を感じづらい気がします。どうしてだと思いますか?

 日本人の特徴として、「道」を極めようとする文化があると思います。武道や茶道などをはじめ、最近だと「コミュ力」などの「力」という言葉にも転換されている気がしますが、とにかく100%ではない今の状態が前提にあり、それを改善し、道を極めていこうとする姿勢です。それは言い換えれば、いつも「途中」であるという感覚。「幸せ」においてもそうで、今は幸せではないという前提で、改善の先に100%の「幸せ」があるという価値観が根付いてるので、いつまでも辿り着きづらいのではないでしょうか。日本では「幸せ」は頑張って掴んでいくもの。一方でフィジーでは最初からあるもの。そうした捉え方の違いがあると思います。

現地の伝統的な儀式を行うフィジアンたち。

自分にゆるく、他人にもゆるい

――そんなフィジーでの生活では、どういったカルチャーギャップがあるのでしょう?

 フィジアンは「自分にゆるく、他人にもゆるい」です。遅刻しても誰にも責められません。遅刻した人を注意すれば、自分も遅刻できなくなってしまう。それがみんな嫌なんです。一方で、日本は他人にも自分にも厳しい。日本は世界一言い訳を許さない国のひとつだと思います。良くも悪くもどちらも一貫性を感じますね。

――たしかに日本は他者に厳しいかもしれませんね。

 例えば、日本では小学生が宿題を忘れて「朝起きてやろうと思ったけど、寝坊しました」と正直に言うと、「言い訳するな!」って怒られたりしますよね。遅刻して「バスが遅れた」って言っても「遅れる前提で動け」って言われる。日本はとにかく自責文化です。それは時に改善や成長に繋がるとも思いますが、一度自分を責めないといけないので、自己肯定感が痩せ細っちゃう気はしますよね。

――現地で暮らしていく中で、ご自身の価値観に変化はありますか?

 日本で根付いた価値観はそうそう崩れないので、やっぱり根っこは日本人ですね(笑)。ただ、他者への許容度は高くなりました。必要に応じて、フィジーの価値観を取り込んでいくのがいいと思って生活しています。

永崎さん。息子さんと自宅にて。

友達が作りやすい国

――フィジーはどんな人におすすめの国ですか?

 友達を作りたい人ですね。ここは世界で一番友達を作りやすい国だと思います。お金やスキル、語学力は関係ないです。最近うちに通っている留学生で一番友達ができてるのは、学校で一番英語が話せない生徒です。驚きですよね。日本は「世界友達が作りづらい国ランキング」で5位というデータもあります。そんな国からフィジーに来たら、「人がフレンドリーすぎる!」と衝撃的に感じるかと思います。

カラーズの生徒たち。

――今後について教えてください。

 2024年9月17日から『探究ランド』というオンライン・スクールを開校します。大人が好奇心を取り戻すことを1つの目標に、「もし海外移住するなら」という視点から、世界を学ぶワークショップです。まず大人編をスタートさせ、続いて、小中学生を対象とした「オンライン探究塾」も始動します。これまで世界100カ国を旅してきた経験や、内閣府「次世代グローバルリーダー育成事業」に日本ナショナルリーダーとして携わってきた自分の経験を、ここで最大限活かそうと思っています。
 また、フィジー在住17年で得たウェルビーイングの知見は日本の方々にも、大きなヒントになるかと思います。今後も様々な発信をフィジーから続けていきますので、チェックしてもらえたら嬉しいです。

取材:2023年8月
写真提供:永崎裕麻さん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです

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聞き手

おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。

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