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#026 サッカー&ビジネス…挑戦と撤退の末にたどり着いた懐の深い国【タイ】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~

お名前:須見智志さん
ご職業:経営者
在住地:バンコク(2012年~)
出身地:埼玉
須見さん経営の海外研修の会社:①
https://samuraicurry.com/ ②https://spiceup.jp/
須見さん経営の船舶売買の会社:
https://satoship.jp/

サッカー選手の夢を諦めて就職するも、会社が潰れかかる

――タイに移住する前は何をされていたんですか?

 学生時代はサッカー選手になるために大学を中退して、スペインに渡っていました。一度はグラナダCFというクラブの下部組織に合格したんですが、一方的に契約を破棄されてしまったり、トップチームで活躍する選手になるまでの道のりは狭く厳しいという現実を知りました。結局2年くらいで日本に帰ってきて、次はビジネスの世界でがんばりたいと思って、語学が活かせるような仕事を探しました。日本人のアメリカ就職を支援する会社で働くようになったんですが、この会社が結構うまくいって、ハワイやロサンゼルスなどに駐在したりもしていました。

――そんな中、どうしてタイへ?

 会社の経営が傾いてしまったんです。ある時期、アメリカで就労ビザの規制強化があって、人材紹介がまったくできない状態になったんです。もう売上ゼロですよ。最終的に社員も代表と私の二人になってしまって、代表が「会社の借金は俺がなんとかするから大丈夫」と言ってくれて、私は会社を抜けることになったんです。「これからどうしようかな」と思っていた時に出合ったのが、タイでした。

スペイン滞在時の須貝さん(2列目中央)。

人生に欠かせない人がいる国

――タイには旅行で訪れたんですか?

 半分そうですね。会社を辞めたあと、東南アジアを4カ月間ほど旅して回っていたんです。そこで、タイの人材派遣会社が人を探していると聞いて、面接に行ってみたんです。そこは、接客サービスに特化した会社で、いわゆる日本の「おもてなし」的な接客サービスを海外に輸出していました。当時は「2~3年タイで仕事の経験を積んだら東南アジアの他の国に移ろう」と考えていたので、とりあえず入社することにしたんです。その会社では現地法人の社長にもなったんですが、あまり事業がうまくいかず、最終的には会社を畳むことになりました。

――会社を畳んだ後はどうされたんですか?

 独立しました。当時は日本人向けに海外研修事業を行っているスパイスアップジャパンという会社のお手伝いをしていて、その代表の方から「タイで会社作っちゃいなよ」って言われたんです。それならということで、スパイスアップジャパンのタイ法人を立ち上げました。

――当初の予定では経験を生かして他国に渡るはずだったと思いますが、タイに残った理由はなんでしょうか?

 こちらで知り合ったタイ人の妻の存在が大きいですね。もともと私は「40歳くらいで自分の人生は終わる」と思い込んでいて、スペインでサッカーをあきらめて、日本でビジネスの世界に飛び込んで、タイで働き始めて、とにかく生き急ぐ日々を送っていました。そして、ある日突然うつ病になったんです。
 そんなとき、精神面でも生活面でも寄り添って支えてくれたのがバンコクのビジネス交流会で知り合った一人の女性でした。経営者としても人としても尊敬できる人で、私からアプローチして、結婚に至りました。それ以来ずっと私の人生にとって欠かせない、頼りになる存在です。そんな妻がいる国に暮らしたいという気持ちがありました。

公私ともに最良のパートナーである奥さんと、ペットたち。

知られざる日本の中古船需要

――現在のお仕事について教えてください。

 海外研修の事業を続けながら、妻がやっている中古ボートの販売事業を手伝っています。彼女は起業家でもあり、日本の中古の旅客船や漁船などを買って、タイの富裕層やリゾートホテル、漁師などに販売しています。タイでは木製の船も現役なくらいですから、日本の中古ボートの需要も高いんです。

――日本の中古ボートは、いくらで仕入れるんですか?

 だいたい10万~100万円くらいで、平均で50万円くらいですね。ただ、漁船は格別に安いです。タダのものもあれば、場合によってはお金をもらって仕入れることもあります。

――なぜそんなに安いんですか?

 日本の漁師さんは高齢化が進んでいるので、船が余っているんです。そもそも日本で使われている船の多くはプラスチックでできてるので、処分しようにもかなりのお金がかかってしまう。タイへの輸送費だけをいただいて我々がそれを仕入れれば、漁師さんも処分費用を抑えて不要な船を手放すことができるんです。

――なるほど! よくできていますね!

 私もはじめは船のビジネスのことは全く知らなかったんですが、いざ勉強し始めると、おもしろいんですよね。船のエンジンなんかも男心をくすぐられますし、輸出入の貿易もやってみると楽しい。やっぱりビジネスは、安く仕入れて高く売る。これに尽きるんだなと思わされますね。

須貝さんたちが仕入れた日本の漁船。

結納金の値下げ交渉でブチギレ

――タイで感じる文化の違いはありますか?

 結婚する前に、男性が女性の母親に結納金を払うことに驚きました。金額は奥さんの収入や年齢によって変わるらしいんですが、私の場合は最初200万バーツ(当時で約800万円)って言われて、「え、高!」ってびっくりしました。そんなお金は持ってなかったので困っていたら、妻が「大丈夫、ディスカウントするから」って言うんです。結局、親が納得できるかどうかなので、ある程度はディスカウントできるようなんですね。

――なかなかの金額ですね。なぜ結納金の慣習が残っていると思いますか?

 タイでは、男女問わずに子どもが働き出すと、毎月親に収入の一部を送るのが一般的です。結婚して仕事を辞めると、仕送りがなくなってしまうので、その補填として結納金があるみたいです。あとは、離婚した場合の慰謝料の前払いのような位置付けでもあるようです。

――なるほど。結局ディスカウントはできたんですか?

 それがなかなか大変なことになりました。結果的に奥さんから「80万バーツ(当時で約320万円)でよさそうだよ」と言われたんです。当初の半額以下なので、すごいですよね。それで、結婚式前に妻のお母さんに80万バーツをお渡ししたんですけど、お母さんが激怒して「私の娘はこんなに安くない!」って物を投げつけられました。「話と違う!」と思いましたね(笑)。

――その金額でOKが出てたんですよね?

 タイではよくある話らしいです。「今この瞬間を生きてる」って人が多いので、その時はオッケーでも、今は違うっていうケースはよくあるんです(笑)。結納金は結果的に100万バーツで落ち着きました。

多様な人々が受け入れられる場所

――今後について教えてください。

 海外研修の事業は、今後も広げていきたいと思っています。タイの大学生と協力してマーケティングをしたり、売上の一部を地元の障がい者施設に寄付していく仕組みにしています。
 新型コロナが5類に移行したものの、日本の社会人が海外へ出なくなってきている気がします。ビザなしで訪問できる国・地域が最多である、世界最強の日本のパスポートをどんどん使ってほしいなと思っています。現地で生身で獲得できる情報はインターネットにはないものですから、ぜひ海外に出てそれを吸収してほしい。
 中古船貿易は、タイだけでなく、インドネシアやベトナムなど他のアジアの国、最終的にはアフリカにも販路を広げていきたいですね。

――タイはどんな人におすすめの国ですか?

 旅行でも移住でも、老若男女全ての人を受け入れる土壌がある国だと思っています。個人的には、ニューヨークよりも人種のるつぼだと感じるくらい、いろんな人種の人々が暮らしているし、差別も少ないです。はじめて海外旅行に行く人も、とりあえずタイがおすすめですね。むしろタイが無理だったら、他の国もきびしいんじゃないかと思いますね。
 たとえば、タイ語には「マイペンライ」という言葉があって、毎日のように耳にします。日本語に直訳すると「大丈夫」「問題ない」「気にしない」の他、「どういたしまして」など様々な意味があって、タイに来たばかりのころはこの言葉に結構苦労させられました。こちらとしては「それ、全然『マイペンライ(大丈夫)』じゃないでしょ!」というような場面でも、タイの人は本気で「大丈夫」って言っているんですよね。何年も生活するうち、これは失敗してもあまり執着せず、これからをどうよくしていこうかを考える人がタイには圧倒的に多いからなんだと気づきました。タイの懐の深さは、こういうものの考え方からも来ているのだと思います。

バンコク名物のバイクの行列

取材:2023年5月
写真提供:須見智志さん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです

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聞き手

おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。


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