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#027 レゲエの本場、唯一無二の日本人DJ【ジャマイカ】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~

お名前:家部由美子さん
ご職業:ラジオDJ、音楽&撮影コーディネーター、ゲストハウスオーナー
在住地:キングストン(1993年~)
出身地:埼玉
由美子さん運営のゲストハウス:
https://www.aishahouse.com/

レゲエ業界に貢献した女性に贈られるジャマイカの「レゲエクィーン」受賞の様子(2023年)

レゲエ音楽の斬新さにやられた20代

――ジャマイカとの出合いを教えてください。

 
レゲエがキッカケですね。20代前半の頃、インドで小物を買い付けて表参道で売る仕事をしていました。ある時、お客さんのひとりが「名古屋でクラブ始めるんだけど一緒に来ない?」と誘ってくれたんです。当時は1980年代で、ちょうど日本でクラブ文化が生まれたくらいのタイミングですね。私も音楽が好きだったので、せっかくの機会だと思い、名古屋に行くことにしました。

――そこでレゲエと関わっていくのでしょうか?

 そうです。そのお店は毎週日曜日が「レゲエの日」で、一日中レゲエを流していました。ある時レゲエ担当のDJがやめることになって、突然「ゆみちゃんやってみない?」と言われて、手探りでレゲエDJをはじめることになりました。それが1986年で、ちょうどレゲエの本場ジャマイカで「コンピューターライズド」という音楽革命が始まったタイミングでした。生演奏を録音するのではなく、コンピューターの打ち込みで音楽をつくることです。それまでのボブ・マーリーを象徴とするゆったりしたレゲエとは違う斬新さとオリジナリティにやられて、どっぷりレゲエにハマっていきました。

「ジャマイカ行かないと始まらないよ」

――ジャマイカに行こうと思ったきっかけはなんですか?

 当時、有名アーティストをクラブに呼んで、定期的にイベントを開いていました。そのうちの一人に日本のレゲエ業界の第一人者でもあるランキン・タクシーさんがいたんです。彼と話しているとき、ふと「ジャマイカ行かないと始まらないよ」って言われて、そこからずっと「やっぱり本場に行かないとな」と思うようになったんです。そのあとお金を貯めて、4年半ほどインドやイギリスなどを旅をしながら、最終的に1991年にジャマイカにたどり着きました。

――そのまま移住されたんですよね? 決め手はなんですか?

 私にとってこんな贅沢な国はないと思いました。当時、日本ではまだレゲエの文化が確立されていなかったので、物足りなさを感じていましたが、ジャマイカには自分の好きな文化が溢れてたんです。あと、わたしが日本社会に合わなかったのもありますね。いまでこそ日本も多様性と個性を重視しつつありますが、当時は女性がみんな流行りのアイドルと同じ髪型をしてたり、遊び方もディスコに行くだけだったりと、似たような格好で似たようなことをする時代でした。当時の私の感覚とは少しずれていました。それなら「自分の好きな文化がある環境で生きていこう」という気持ちがあったんです。

レゲエの本場で音楽バトル優勝

――ジャマイカではこれまでどんなお仕事をされてきたのでしょうか?

 ジャマイカには日本企業がほとんどなかったので、自分で仕事を作っていく必要がありました。タクシー事業やレンタカー事業、撮影コーディネート、音楽コーディネート、宿経営などさまざまなことをしてきました。音楽に関しては「カーサウンドクラッシュ」という音楽バトルに出場したりしています。

――「カーサウンドクラッシュ」とはなんでしょう!?

 車にサウンドシステム(音響設備)を積んで、音質と選曲で戦う、レゲエ発祥の音楽バトルです。もともと私はジャマイカで「ダブプレート(世界で1曲だけの特別な替え歌)」を作る仕事をしていて、その音源をいくつも手元に持っていたんです。DJはいくつも曲を繋ぐ技術が必要でハードルが高いけど、サウンドクラッシュはカーステレオで持ち合わせの曲を一曲ずつ流すだけ。これなら私も勝負できると思って始めたんです。以降、各地で開催されている大会に出るようになって、気づいたら優勝トロフィーを20個ほど獲得していました(笑)。

――すごいですね……! 今ではレゲエDJもされているんですよね?

 カーサウンドクラッシュを始めて数年後、42歳の時ですね。ある女性がジャマイカで女性だけのDJイベントをやらないかと持ちかけてくれたんです。私はそれまでジャマイカでDJをやったことがなかったので、急いで機材を買って、猛練習しました。ちゃんと教えてくれる人もいないので、独学です。でも、数ヶ月練習して「よしやるぞ」というタイミングで、そのイベントが中止になりました(笑)。
 とはいえ、これをきっかけにパーティーでもDJをするようになり、最終的にはニューヨークで開かれた世界女性レゲエDJ大会で優勝しました(笑)。せっかく練習したのに大会が中止になった時は残念でしたけど、人生無駄なことはないなと思いますよね。

カーサウンドクラッシュの様子
カーサウンドクラッシュに出場する由美子さん
カーサウンドクラッシュで獲得した優勝トロフィーの数々

ジャマイカ唯一の日本人ラジオDJ

――現在はどんなお仕事をされているのでしょうか?

 今は、音楽関係の仕事や、ゲストハウス運営などをしつつ、ジャマイカで唯一の日本人女性ラジオDJとして仕事をしています。

――イベントではなく、ラジオでDJを始めた理由を教えてください。

 偶然ラジオDJの方が目をつけてくれたんです。ジャマイカのお葬式やお通夜は、日本と違って音楽パーティーになるので、そこでよく音楽を流していたんです。ある時、いつもと同じようにお通夜で音楽を流していたところ、その家の向かいにあるバーの人に「うちでもDJやってくれない?」と頼まれました。お金がないバーだったのでギャラは安かったんですが、手は抜かずにDJをしてました。そうしたら、バーの隣に住んでるラジオDJ が「なんでこんなところで日本人がDJをやっているんだ?」と目をつけてくれて、彼が局に相談してラジオ局で番組を持たせてもらうことになったんです(笑)。最初は深夜からスタートして、いまはお昼の放送で音楽を流してます。

――すごいつながりですね! 仕事で驚いたことはありますか?

 大雑把というか、土壇場に強いところに衝撃を受けましたね。ラジオ番組が始まる初日、普通だったらいろいろと機材や番組の進め方の説明をしてくれると思うんですけど、5分くらい簡単に説明した後に「こんな感じだから後はよろしく!」って。なので、最初は手探りでした(笑)。機材が壊れてるなんてことはよくあります。文句を言いたくなることもありますが、こっちの人は「こっちが壊れてるなら、この機能を使えばいい」とか言いながらその場でなんとかしちゃうんです。そうした臨機応変な対応力は見習わないとなって日々思いますね。

由美子さんのラジオ番組

道端にスピーカーが積み上がる!

――生活をする中ではどんな文化の違いがあるでしょうか?

 今ではもうなくなりつつある文化なんですが、昔はストリートがディスコ状態になることに驚きました。こちらの中流以下のゲットーではどデカいスピーカーを道端に積み上げて頻繁にパーティーをする文化があったんです。夕方4時くらいから準備を始めて、夜中の12時からお洒落した人たちが集まり始め、朝方まで踊る日もありました。

――なんと素敵な……どうしてなくなりつつあるのでしょうか?

 騒音法などができ、10年くらい前から規制が厳しくなったことが理由です。今では野外でのパーティーは許可制になりました。許可制といっても、国は治安向上に注力しているので、ちょっとでも治安が悪い地区はほぼ許可がおりません。昔はストリートで爆音で音楽が流れていたんですが、気づいたら町からスピーカーが消えて、“空間で聴く”音楽がなくなってしまいました。私はそれがすごく寂しいんですが、最近の若い子はイヤホンを付けて“耳で聴く”人が増えたので、時代の変化を感じますね。

――由美子さんからみて、ジャマイカ人にとってレゲエとはどんなものなのでしょうか?

 娯楽であり生活の一部。これは時代が進んでも変わらないと思います。治安が悪かったり、経済的に厳しい生活を送る人も多いジャマイカ人にとって、理不尽なことが起きても、ポジティブに前を向かせてくれるのがレゲエなんです。実際にレゲエの歌詞には、「今日も辛かったけど、明日はいい日が来る」といったメッセージが多くあります。時代と共に音楽の聴き方やトレンドが変化しても、これは根幹にあり続けると思います。だから、レゲエはジャマイカの人にとって、なくてはならない生活の一部なんです。

キングストンの下町「ビート・ストリート」のペインティング

レゲエは自殺を予防する!?

――ジャマイカはどんな人におすすめの国ですか?

 日本で鬱屈した日々を送っている人に向いているかもしれません。ジャマイカ人は人懐っこいし、国土は自然も豊かですし、暮らしていると気持ちがいいです。よく音楽関係者と、「ジャマイカで自殺する人が少ないのは、レゲエがあるからかもしれないな」なんて話したりしてます。ジャマイカには、生活がいくら大変でも、前を向かせてくれる音楽があります。その明るさが、きっと開放的な雰囲気を作り出しているんだと思います。

――今後について教えてください。

いつかジャマイカで温泉を掘り当てて、温泉宿をやりたい。これがいまの夢ですね。日本人といえばやっぱり温泉でしょ? こちらにも温泉はあるんですが、ただ浸かって出るだけなので、情緒がないんです。いつか日本の温泉宿のように、自然のなかでゆっくりできるような場所をジャマイカにも作りたいですね。

ジャマイカの子どもたちと

由美子さん厳選!
日本人に聴いてほしい
「つらい生活に力を与える」レゲエ曲!!

①Tessanne Chin - Anything's Possible

Apple Music Spotify

②Everton Blender - Lift Up Your Head

Apple Music Spotify

③I-Octane, Ginjah - One Chance

④Black Am I - All You Can Do Is Try

取材:2023年7月
写真提供:家部由美子さん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです

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聞き手

おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。



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