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ネッククーラーはいかにして生まれたのか?

秋葉原を拠点に、アイデアグッズやパソコン周辺機器、面白家電を販売している「サンコー」という会社をご存じでしょうか。
「面白くて役に立つ」をキーワードにユニークな新商品を年間100点以上も発売し、2021年には前年比2倍以上の売上を叩き出して注目を集めている会社です。

6月7日に発売した新書『スキを突く経営 面白家電のサンコーはなぜウケるのか』では、成長の秘密を同社トップの山光博康さんが大公開していますが、ここではその中から、急成長の牽引役となった商品・ネッククーラーシリーズについてのお話を再構成して、連載形式でご紹介しています。今回はその第2回目です。

〈USB首ひんやりネッククーラー〉

2013年に販売したのが首元を冷やす送風冷感機『USB首ひんやりネッククーラー』(1,980円)でした。

本商品を首に装着すると、内側の金属製クーリングプレートが首に直接触れるようになっています。そのプレートに内部からファンの風を当てることで熱を奪う、という仕組みです。USB電源の他、乾電池でも動作するうえ、本体内部にはスポンジが装備されていて、水をしみこませることで冷却効果をアップさせる機能もありました。

これまでにない、斬新なアイデア商品だと思ったのですが、販売はふるいませんでした。なぜ人気が出ないのかと、お客様の声を調べていったら、冷却能力が高くなかったことがいちばんの要因でした。猛暑になると、涼しいと思えるほどにはプレートが冷えなかったのです。
その経験があったので、徹底的に冷やして涼しくなるソリューション(解決策)がないか、と考えていたのです。

そのときに知ったのが、「ペルチェ」という半導体素子の存在でした。ペルチェ素子は、通電すると片面が熱く、もう片面が冷たくなる性質をもったデバイスで、小型の冷蔵庫などに使われていました。
これを見つけたとき、小型化してUSB電源で駆動すれば、どんなに暑くなっても冷えるウェアラブル(身に着ける)な商品ができるぞ、と思いました。

社内の誰が、このアイデアを考え出したのかは、忘れてしまいました。そんなことは忘れてしまう程度のことなのです。
大切なのはアイデアを商品化していく会社全体のパフォーマンスです。この場合の商品化とは、実際に作るだけではなく、コストから利益まで計算し、市場調査などのマーケティングをやって、宣伝PR戦略をたてて、売り出すところまでを言います。とはいえ口で言ったり企画書に書くのは簡単でも、現実に計画通り商品化するのはとても難しいものです。

〈こりゃひえ~る〉

このペルチェ素子を使う商品として最初に考えたアイデアは、冷えるプレートがひとつで、首の後ろとかオデコを1か所だけ冷やすものでした。
団塊の世代の人たちにこの話をすると「エヂソン・バンドみたいだ」と言われるのですが、私が生まれる前に流行ったアイデア商品らしく、私にはよくわかりません。

ようするに白元アースさんの『アイスノンベルト』を首かオデコに巻くというような考え方です。その意味では、頭のまわりの、どこか一箇所を冷やすアイデアは、昔からあったお馴染みの生活の知恵でした。新しいのはUSB電源で冷えるプレートを使っているところです。

この初代ネッククーラーは、2015年に『こりゃひえ~る』というネーミングで、発売しました。USB端子から直接コードを介して給電する仕組みで、外気温マイナス10℃程度の冷却性能を持っていました。

用意したのは2,000個。もっと売れるだろうとは思ったけれど、どうしても売れなかったときのことを考えてしまうので、とりあえず2,000個でいこうと決めました。

大量生産はイコール大金投資なので、アテがハズレてしまうと、投資を回収できなくなってしまうという怖さがあります。しかも、この頃は企画開発の人手が多くなかったこともあって開発が遅れ、夏の暑い盛りに発売したので、機会損失の可能性も高い状態でした。

本当ならば夏前に発売して、時間をかけて宣伝をし、夏の盛りにターゲットを合わせなければならないのですが、間に合わなかったのです。でも、第1世代は2,000個きっちりと売れて、それなりに手応えはありました。 

〈ネック冷却クーラー&温めウォーマー〉

そこで、大幅な改良を施し、首掛け式にモデルチェンジしました。このときから冷えるプレートを2つ搭載し、首の両側を冷やす現在のスタイルになったのです。

しかも、冷やすだけでなく温めることもできる仕様で、冬の寒い時期にも使えるように工夫していました。動作中の温度は冷却時が約10℃~17℃、加熱時が約20℃~40℃です。また、白いシャツと組み合わせても自己主張しないホワイトのモデルも用意しました。

この第2世代は『ネック冷却クーラー&温めウォーマー』という商品名で、2017年に売り出しました。用意したのは5,000個だったと記憶しています。

しかし相変わらず人手が足りないから、どうしても開発が後手後手になってしまい、この第2世代も暑くなる直前にようやく発売にこぎつけたので、大きな機会損失があったと思います。それでも、5,000個を完売しました。家電量販店やホームセンターからも「店頭で売りたい」と声が掛かりました。
 

次回はバッテリー搭載モデルへの進化をご紹介しましょう。(続く)


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