江口寿史 VS 180cm四方の大カンヴァス、そのとき選ばれた「画材」とは!?
2021年3月30日、新宿LOFT/PLUS ONEにて江口寿史美人画集『彼女』(2021年3月10日発売)の刊行を記念して、江口寿史さん、美術評論家の楠見清さん、タレントのぱいぱいでか美さんによる配信トークイベントを開催しました。
当日の様子をお届けする本記事では、青森で開催された「江口寿史イラストレーション展 彼女」の様子や、江口さんの作品に対する思いを紹介していきます。
青森での「彼女」展
ぱいぱいでか美(以下「で」):皆さん、こんばんは。始まりました。本日は江口寿史さんのイラストレーション集『彼女』の刊行記念トークイベントということで、なぜだか呼んでいただきました(笑)、ぱいぱいでか美です。よろしくお願いします。
江口寿史(以下「江」):江口寿史と申します。どうも。
楠見清(以下「楠」):今日は私も呼んでいただきました、というかたちですけれども、江口さんの展覧会「彼女」の監修を務めてます、美術評論家の楠見清と申します。今日はよろしくお願いします。
で・楠:よろしくお願いします。
で:いま青森で『彼女』の展覧会が開催中なんですよね。(註:「江口寿史イラストレーション展 彼女」2021年3月13日~5月9日開催)
会場の様子ってどんな感じだったんですか?
江:会場設営から初日をまたいで二週間くらい行ってたんだけど、とにかく街に人がいなくて、大丈夫かいなと思ったんですけど。
で:それはコロナ的なことなのか……
江:コロナ的なことももちろんあるし、観光客も少ないし、というのもあって心配してたんですけど。でも始まってみればそれなりにお客さんには来ていただけてますね。家族連れとか。
この「彼女」展に関しては、年齢層が幅広くて。お父さんが自分の娘に僕のこと伝えて、その娘さんがファンになって、みたいに世代世代に引き継がれてということもあるみたいで、アットホームな雰囲気もありますね。
で:青森に行かれたのは初めてだったんですか?
江:いや、今回が二回目。前回はラーメン本を書いてたときで、「青森ラーメンも食べとこう」っつって、二日で五杯くらい食べたかなあ。
で:青森ってラーメンのイメージあまりないですけどね。
江:青森ラーメンはね、煮干しのダシと醤油で、わりとあっさりしてるんですよね。前に行った店はね、どこもラーメン屋とそば屋がいっしょになってたんですよ。
で、どっちを食べても「汁おんなじじゃねえかこれ、麺が変わっただけじゃねぇか」というくらいあっさりしてたんだけど(笑)。でも最近はわりとこってり好きの若い人が多いせいか、いろんなタイプのラーメン屋が増えてましたね。
で:展覧会で行くのは初めてだったんですね。
江:そうですね。
初の試み、ライブドローイング
で:展覧会で江口さんがライブドローイングをしている様子を撮影した動画があるので、そちらを観てみましょう。
〈ToonippoPress(東奥日報) YouTubeチャンネルより〉
江:(動画を観ながら)これまで「彼女」展では、対面でお客さんの絵を描くライブスケッチをしてたんですけど、コロナになってからは対面がやりづらいというのがあって、それに代わるものとしてドローイングをやろうと思いついたんですよね。
それまでデカい絵を描いたことがなかったので、デカい絵を描いてみたいっていうことで、これを各会場で一枚ずつ描くっていう。今回のは180㎝×180㎝のカンヴァスを使いました。
で:相当な、負担って言ったらあれですけど……
江:いや、負担自体はそんなにないんですけど、初めてだから大きさの比率がわかんなくて。最初、小さいスケッチブックに下書きを描いていって、照らし合わせながらやったんですけど、10分に一度くらい後ろに下がって見ないとバランスがわかんないんですよね。これ、一日5、6時間くらい描いて二日かかったからね。
楠:画材はなんですか?
江:マッキーですね。
で:えー、すご〜い!! そんな、誰でも買えるやつだとは思わなかった。
江:線をもっと太くしたいと思って、二重三重に塗りました。絵を描いてるというよりも、もうなんか、作業(笑)。創作というよりも、プラモ作ってるとか、そういう感じですね。
楠:それだったら、グラフィティライターの人が使うようなマーカーが良いですよ。
江:ああ、そういうの、知らないからねえ。微妙な太さのが欲しいんですよね。通常のハイマッキーのひとつ上のサイズもあるんですけど、デカすぎるんですよ。なので何度も何度も重ねて、太くしてますね、線を。
楠:あと、マッキーの穂先の部分にカッターナイフで切り込みを入れて広げると、幅が広くて、端は薄い感じで、シャッシャッと描けますよ。
で:これ何本使ったんですか、マッキー?
江:けっこう使ったんじゃないですかね。20本くらいかな?
江:グラフィティをやってる人が使うものは、どこで手に入るんですかね?
楠:専門のショップが、通販でありますよ。
で:やる前に言って欲しかったですよね(笑)。
江:ははは。でもね、こういうのは一度やんないとわかんないから。
楠:そうなんですよね。
江:最初、顔がものすごく小っちゃくなっちゃって。「いや、これは大変だぞ」と思って。
で:画材も違えば大きさも違って、ぜんぶ挑戦みたいな感じですもんね。
江:これずっと無言で、何もしゃべらずやってるんで、「皆さん、退屈じゃないですか」とか途中でお客さんに訊いたりして(笑)。
「マスク姿の少女」
楠:それにしてもモチーフが、マスクをした少女っていうのはとても良いなと思いますね。
江:このシリーズは全部マスクにしようと思って。へへへ。
で:それはやっぱり、今だから、描こうかなみたいな?
江:そうですね。
で:マスクをしてる人としてない人と、どっちが描くの大変なんですか?
江:マスクをしてる人の方が、本来僕の持ち味とされている鼻や口といった、かわいさを表現する部分を隠すことになるわけです。そのうえで僕の絵にしなきゃいけないんで、難しいですね。
で:でもこれはファンの方からしたら、一日入り浸っちゃいますよ。めっちゃ楽しいと思う、これ見れるの。
江:1970年代に、フランスのバズーカっていうイラストレーターの集団 がいたじゃないですか。あの辺の人達の作品に、マスクしてたり、ギプスしてたり、包帯してたりというアートがあったんですよね。
椎名林檎さんとかがやってた感じにも近い。ああいう意識もありますね。
楠:あるいはエヴァンゲリオンの綾波レイとかのルーツでもありますよね。
江:うん。歴史的にあるんですよね。ギプス×アートみたいなのが。アラーキーとかも、そういう写真撮ってたもんね。
楠:そうですね。マスクで鼻から下が隠されることによって、目力みたいなものが強調されるし、あとは、髪を結うっていう、このときの手が表情を持つなあって思って。
江:マスクしてるっていうのが、もうスタンダードのような気がするんですよね。コロナの終息を待つというよりも、もうこれからの地球のスタンダード。そのなかで、日常的な動作とマスクと、みたいな感じで。
で:いや〜、すごい。これ、観れた人はラッキーというか、絶対嬉しいですね。ずっと観てる人もいたんじゃないですか?
江:いましたね。今回は白黒だったけど、そのうちまた色もつけたくなっちゃったりして……また、いろんな知らないことが出てくると思うんですけどね(笑)。まあ、いまのところマッキーだけでやろうかなと。
で:カラーのマッキーもありますからね。
江:そうだ、カラーもあるんだよね(笑)。
で:でもマッキーなんだっていうのは、けっこう衝撃的でしたね。絵を描きたいと思っている方にとっては、希望が感じられるというか、「やってみようかな」とか思えそうですね。
江:マッキーはね、すごい優れた画材なんで。
で:ははははは。
楠:普段のライブスケッチも、本当に普通のボールペンですよね? だからある意味画材じゃなくて、事務用品というか、文房具で絵を描くっていうのが、江口さんの面白いところだと思うんですよ。
江:はい。かすかに下書きはしましたけどね。いつも「ライブスケッチは下書きなし」っていうのが決め事なんだけど。これはさすがに鉛筆でアタリを取らないと、描けなかったですね。
楠:私はこれから実物を観に行くんですけど、すごく楽しみです。それこそマッキーで塗った、塗りあとみたいなところとか、重ね塗りしたところがテラテラっとしてたりとか、観たらわかりますよね、多分。
江:そうそう。修正もしてるんですよ、ホワイトで(笑)。漫画に使うホワイトでやったんですよね。
楠:かっこいい。
江:だから近くで見ると、失敗したあとが見えますよ。
ぜんぶ青森の、近所の文房具屋で調達して。「ホワイトあるかなあ?」とかって、スタッフさんに「ポスカラのホワイト買ってきて」って言って(笑)。
で:近くで売った人も、まさか江口さんが使うと思って売ってないですよね(笑)。
江:そうですね。ぜんぜん普通の画材ですからね。
で:ところで、こうやってライブスケッチしたものって、会期が終わったあとはどこへ行くんですか?
江:それですよね(笑)。まあ「彼女」展はまだ続くんで、そのあいだはどっかに保管するんですけど。
「彼女」展の巡回が終了した場合は、僕のところに来るんでしょうけど、置く場所がない。(笑)。
――つづきはこちらからどうぞ!
『彼女』江口寿史
初収録作品40点以上を含む350点以上の作品を、
女性イラストのみで構成した美人画集!
定価:4,950円(10%税込)
仕様:B5判オールカラー 288ページ
ISBN: 978-4-7976-7385-2