ネッククーラーが抱えていた大きな問題点
〈電源の進化〉
ネッククーラーシリーズ歴代モデルにおける、重要な改良ポイントのひとつが電源です。
最初はUSBから電源を取っていたのですが、『ネッククーラーEvo』以降は専用の充電式バッテリーを本体に装備しました。そのおかげで完全にワイヤレスになっています。
こうなるとサイクリングやジョギングといったアクティブなシーンはもちろんのこと、体を動かして働く現場、たとえば工場、工事現場、農作業、街頭での配布作業など、屋外や空調のない場所で働く人たちにも、気軽に使ってもらえるようになりました。
事業主のみなさんにも熱中症を防ぐ効果を認めていただけたので、設備投資として事業所単位で大量に購入してもらいました。
日本の蒸し暑くなる地域で使っていただくのはもちろん、世界各国でも役に立てます。USBポートから充電できますので、コンセントの規格を選びませんから、世界的な市場への進出も可能だと思います。
ネッククーラーは、首に装着するというスタイルとシルエットは引き継ぎながらも、それ以外の性能や機能、デザイン、使い勝手は徹底的に改良してモデルチェンジしてきた商品です。その進化の意義を理解してもらうために、ここでは具体的な改良点について紹介しておきたいと思います。
〈明らかになった問題点〉
ネッククーラーには、電気を伝えると片面が発熱し、もう片面が冷却されるペルチェ素子と呼ばれる板状のデバイスが使われています。
この冷却面がアルミプレートを介して肌を冷やすのですが、ペルチェ素子の反対側の面は熱をおびるため、その熱を内蔵のファンを使って外気へ逃しています。
したがって、ネッククーラーには熱を逃がすための空気が通る出入り口(スリット)があります。ネッククーラーを装着すると、ちょうど鎖骨の上あたりにアルミプレートがくるようになっていますから、ファンやスリットもその近くに配置されています。
このスリットの形状とファンの機能は、何度も何度も試作品を作り、試行錯誤を繰り返しながら仕上げたものです。というのは、超小型とはいえファンなのですから、モーターの作動音や空気が流れる音という問題が、まずひとつあったためです。
耳のそばに装着するアイテムですから、その音が騒音のようにうっとうしく感じる人がいるのは当然です。そして、もうひとつの問題は、排熱のため外気を取り入れるスリットに、髪の長い人の毛先が巻き込まれてしまうことでした。
〈髪を巻き込むな!〉
うっとうしく感じる音については、商品企画時点から配慮して音を小さくする工夫を重ねてきましたが、髪を巻き込んでしまう問題については2017年の『ネック冷却クーラー&温めウォーマー』発売後、女性ユーザーからご指摘いただいて初めて気がついた問題でした。当時のサンコーの商品企画は、女性の視点が不足していることに気がついていなかったのです。
この問題を解決するのは、大変な仕事でした。まず、吸排気口は静音性はもちろん、ペルチェ素子の冷却効率に繋がるため、簡単に小さくしたり無くすことはできません。
取り入れる空気の量と流れるスピードを調整するために構造を考えなおして、スリットの位置や形状まで仔細に検討し改良を重ねる必要があります。もちろん、デザイン的にもカッコよくしなければなりません。
ネッククーラーは首にかけて使いますから、顔のすぐそばに不細工なモノがあるというのは、耐え難いものです。そのために技術者とデザイナーが共同で作業し、機能を技術的に向上させて、なおかつデザインを良くする改良を進めていく必要がありました。
そこで、以降のモデルでは髪を巻き込まないような構造を目指して改良を続けてきました。特に『ネッククーラーEvo』の開発においては、エンジニアチームとデザインチームが協力しながら、できる限り吸排気口を減らし髪の毛が入ることを阻止しようと試みています。
このときは一定の効果が得られたのですが、やはり冷却効率には大幅な低下がみられました。そこで内部構造の大幅な見直しに加え、熱伝導率の高いグリスをペルチェ素子に塗布することにしました。
どういうことかと言うと、ペルチェ素子には効率的に熱を逃がすための「ヒートシンク」と呼ばれる放熱板を取り付けてあります。『ネッククーラーNeo』ではペルチェ素子とヒートシンクの間に熱伝導シートを使用していたのですが、これをより熱伝導性能を高いグリスへ置き換えることにしたのです。グリスの性能を発揮させるには薄く均一に塗布することが重要で、これが非常に困難でしたが、ある技術の採用によってこれもなんとか解決できました。
さらに、現行モデルの『ネッククーラーSlim』では、吸排気の向きを変更することにも成功。これによって髪の巻き込み問題をさらに低減し、排熱による暑さも感じられないような工夫も加えています。
こうした問題解決には、エンジニア部門とデザイン部門の綿密な連携が必要となります。これまでのサンコーでは、こうした共同作業は困難だったと思います。
その意味では、ネッククーラーの開発を通してこのような共同作業ができるほどに、サンコーはようやく成長したと言っていいと思います。家電メーカーとしてのスターティングポジションに立つことができたのです。
最終回となる次回は、ライバル商品についてお話したいと思います。
(続く)