江口寿史が語る、「パクリ」と「模倣」を分かつもの
2021年3月30日、新宿LOFT/PLUS ONEにて江口寿史美人画集『彼女』(2021年3月10日発売)の刊行を記念して、江口寿史先生、美術評論家の楠見清先生、タレントのぱいぱいでか美さんによる配信トークイベントを開催しました。
漫画家・イラストレーターの支持を多く集める江口さん。
そういったフォロワーたちの作品は、「江口寿史の影響を受けている」と肯定的に受け取られることもあれば、「パクリ」と否定的に呼ばれることもあります。
はたしてその違いはどこにあるのか? 江口さんの考えを聞きました。
(過去記事はこちらからどうぞ)
「パクリ」イラストはOK?
ぱいぱいでか美(以下「で」):江口さんの絵って、見たら「江口さんだ!」って絶対にわかるじゃないですか。それなのに私、先日とんでもないミスをしでかしまして……。
街を歩いていて、広告のポスターを目にしたときに、「あ、今度お会いする江口さんのイラストだ」って思ったんですね。
その後、このイベントの事前打ち合わせで「見ましたよ~」って伝えたら、それがもろにパクリポスターだったっていう事件があったんですよね(笑)。
江口寿史(以下「江」):ありましたねぇ(笑)。
で:本当に、失礼しました。
江:いえいえ、よく言われるんでね。
それにしても、世の中にはもっと素敵なイラストがいっぱいあるんですよ。それなのに、おれのばかり真似しなくていいんじゃない? って。
楠見清(以下「楠」):(笑)。
江:それは多分、みんな僕の絵が一見シンプルに見えて真似しやすいと感じてるっていうことだと思う。でも、40年の積み重ねがあってたどり着いたシンプルなんだよね。そこを飛ばして、「真似しやすそうだからやってみた」っていうのは、心ないことですよ。
パクリが悪いとは言いません。僕も過去、いろんな人からパクってますし、影響を受けてます。だけど上手くなろうって向上心がある人とか、負けん気のある人は、「あの人の絵に似てる」とかって言われるのが嫌なはずなんです。
僕もそう。そういう人は、最初はだれかの模倣をしていても、自分の絵になっていくの。そういう人のことは応援しています。
ただ、広告に関して言えば「あの人みたいな感じで」って頼むクライアントと、「こんなもんだろう」って描くイラストレーターと、それらの見分けがつかない消費者。これ、三者とも悪いですよね(笑)。
僕は、ものすごくいろんなイラストレーターや漫画家をインスタでフォローしててさ。世界中の上手いやつが描いたのを見たりしていれば、僕の絵とパクリの絵が違うのは、すぐわかるはずです。
で:私も、「あれは違うよ」って言われてから「ちゃんと観てなかったわ」って思って。例のポスター広告をすぐ検索してみたら、「ぜんぜん違うじゃん」って本当に思ったんですよ。
江:その広告に関しては、僕は「やってません」って、SNSで100万回くらい言いました(笑)。
で:普通に街を歩いてるだけだと、広告なんてまじまじと見ることもないじゃないですか。
そういう人を騙すために、クライアントは「あの人みたいな感じで」って依頼するんだろうなってめっちゃ思いました。そういうのがまかり通るのがすごいなって。
楠:慌てて僕、フォローしますけども。これ描いてるの、△△さんって人なんですよ。
で:違いますよ! これ△△さんじゃない!
楠:これ△△さんじゃないの!? マジ?
江:△△さんの絵もよく僕と似てるって言われてるけど、ぜんぜん違いますよ。とにかく例のポスターはね、△△さんじゃないです。
楠:じゃあ僕も、別の意味で騙されてたんだ。
で:二重三重のなにかが起きてる、いま(笑)。
江:それはね、ちょっと美術評論としてはダメだね(笑)。
楠:あああ、失礼しました。
で:(爆笑)。
80’sリバイバル
楠:気を取り直して……いま、80年代のカルチャーがリバイバルしてるじゃないですか。
江:それはありますね。
楠:音楽も、80年代のリバイバル。
江:シティ・ポップとかね。
楠:そうそう。80年代のマンガとかアニメとかが、いまの若い人たちにとってすごく新鮮で、そのエッセンスをどうにかして取り入れたい、再生したいみたいなムーブメントがあるんですよ。
さっきの話ですけど、そういう動きを商業的なポスターのなかにどう反映してるかっていう角度から見て、過去にあったカルチャーのリバイバルと重ね合わせて考えると面白い部分がある。
江:80年代のリバイバルには僕も影響を受けてて。自分が当時描いていた絵を積極的に表に出したりしてます。
楠:例えば60年代のポップアートも、80年代のコミックにリバイバルしてたわけですよね。
江:そうそう。僕の絵だって、アメリカのおじいさんとかが見たら、「こいつ、(ロイ・)リキテンスタインの丸パクリじゃねぇか」みたいな、そういうのもあると思いますよ(笑)。
楠:丸パクリじゃなくて、その延長線上にあるんですよ。
描画法のエッセンスとしては、この黒い太いラインと三原色、そしてスクリーントーンみたいにドットを描きこんでいくという――要するにリキテンスタインなんですけど、よく考えてみたらリキテンスタイン自身も、アメコミのコマに触発されて、それを拡大して描いたわけだから。
江:そうなんですよね。
楠:だからリキテンスタインのパクリっていうよりも、原点をたどると、印刷技術によって生まれたコミックの技法なわけですよね。
江口作品のモデルとなる人物
楠:いずれにしても、このVHSをピシッと持ったこのポーズといい、なんかもう、これはすごいなって思いました。
江:ちなみにこの絵のモデルは、おれですよ。
で:へぇ〜。
江:自分でビデオテープ持って、写真を撮って。だから手がデカくないですか?(笑)。
で:言われてみたら(笑)。
江:これはおれがこのポーズを取って撮った写真なので、女の子にしてはデカい。けど、ビデオテープと手の方が手前にあるからね、いいんです(笑)
で:テープと手までの距離をどう設定しているかは、わかんないですからね。
江:おれのiPhoneのなかにそのときのの写真が残ってるんですよ。見せないけどね(笑) 今回初めて画集に入れたカウガールもね、デニムシャツの胸に詰めて、自分でやってんですよ(笑)
で:ご自分でやられるんですね?
江:やってる場合も、あります。モデルがいないときは、自分でやるしかないんで。
で:めちゃめちゃ見たいなぁ〜、それ。
江:これは楠見さんの本のために描いた絵なんですけど、楠見さんのリクエストで、エルヴィス。
楠:アンディー・ウォーホルの作品(「ダブル・エルヴィス」)の、あのポーズとおんなじ。
江:それをね、自分でやってみて、描いた絵ですね。
で:めちゃめちゃ見たいですけどね、その写真(笑)
江:僕が死んだら流出すんのかな。写真フォルダから処分しとかないといけないな……そういうの、いっぱいありますよ。
楠:さっきの話に戻しますと、ある時代の作品とかムーブメントが、ぜんぜん別の時代や場所に影響を及ぼすっていう、連鎖とかキャッチボールみたいなものが面白いと思うんですよ。音楽も絶対そうですよね。
で:あるバンドが売れると、それと似た感じのバンドが2,3組は流行ることができるっていう話もありますもんね。
でもやっぱり、すごく単純な話として、パクられた側はムカつくじゃないですか。それが法的に大丈夫なのが、なんかすごいなって思います。
江:僕の絵そのものを模写してるわけじゃないからね。僕の描き方を模倣してるっていうか。悪気はないのかもしれないけど。それを犯罪とは言えないですよね。ただ、まぁ、つまんないね。
で:モラルの話ってことですよね、きっと。
江:モラルと、あともうちょっとこう、「心」が欲しいね。上手くなりたい心とというか。だって、絵に透けて見えるもん。そういう心は表現に出てくるからね。
楠:描いてる自分がどこに到達したいか、じゃなくて、観る人をどこに連れて行きたいかを見せて欲しいな、って僕は思いますね。
さっきの江口さんのビデオテープのイラストはリキテンスタインみたいなんだけど、いま見て思ったのが、鼻と口が隠れてますよね。
これは『マスク姿の少女』にもつながりますし、あるいは画集『彼女』の表紙のいままでにない角度の横顔みたいな、そういう新しい題材に、いつも江口さんなりに挑戦しようとしていることの現れです。その意味では、リキテンスタインみたいなんだけどリキテンスタインよりも先に行ってると思うんです。見事に。
江:ちなみにこの「BE KIND REWIND」っていう字の書き方は、リキテンスタインへのオマージュです。
楠:なるほどね。
で:そういう細かいところまでリスペクトしてるのがわかる、っていうのが「作品」なんだって話ですよね。
江:そうですよね。リスペクトっていうのは、大事ですよね。
楠:本当に見事に、遠いところまで、先のところまで、ちゃんとみんなを連れて行ける作品だと思いますよ。
江:で、これを観て、またリキテンスタインを知ったり、観たりしてくれるといいな、と思うんですよね。
楠:それこそこの、小指の立て方が。
江:だからこれ、おれがやってますから。
で:(笑)
楠:最高ですよ、これ。
で:江口さんの姿を想像すると、絵の見方が変わってきちゃいますね(笑)
ーーつづきはこちらからどうぞ!
『彼女』江口寿史
初収録作品40点以上を含む350点以上の作品を、
女性イラストのみで構成した美人画集!
定価:4,950円(10%税込)
仕様:B5判オールカラー 288ページ
ISBN: 978-4-7976-7385-2