コロナブルーを乗り越える本 立川談笑
立川談笑さんはコロナ禍が落語家の仕事にも影響し、若旦那よろしく昼間からの在宅というシチュエーションから2冊の本をオススメ。1冊は哲学と宗教の歴史について、もう1冊はミステリー。
※この記事は、集英社インターナショナル公式サイトで2020年4月19日に公開された記事の再掲載です。
『哲学と宗教全史』
出口治明/ダイヤモンド社
落語家も仕事がありません。だから、日がな一日おうちにいますよ。あー、退屈。もうー、退屈。たとえるなら、落語に出てくる若旦那が、父親に勘当されて出入り職人の住まいの2階あたりに居候させてもらってて。で、とっくにお昼ごはんも頂いちゃったし、さぁて遊ぶ金はないし、行くところもなし。晩ごはんまで、何しようかな~ってくらいに、退屈。
退屈たって、何もしたくないんじゃないんです。何かしたい気持ちは募るんだけど、すべきことが見当たらないんです。これを称して「無聊(ぶりょう)」。あるいは手持ち無沙汰。「なんかもう、徒然(つれづれ)だなあ」なんつって、エッセイを書きまくったのが吉田兼好さんでした。彼の著作として日本三大随筆とたたえられるのが、ご存じ『徒然草』! あとの二つは『枕草子』と、もうひとつが『窓際のトットちゃん』でしたか。違いますか。すみません。ふざけずに、ちゃんと本の紹介をします。
私のお勧め。『哲学と宗教全史』(出口治明著)です。ドドーンとぶ厚い460ページ。しかもハードカバー。重たい本です。寝ながら読みづらい。わはは。けど、とてつもなく面白いのでお勧めです!
この本は…
「脳研究者で東京大学教授の池谷裕二氏絶賛、宮部みゆき氏推薦、某有名書店員さんが激賞する『哲学と宗教全史』。世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した現代の知の巨人・出口治明APU(立命館アジア太平洋大学)学長が、古代ギリシャから現代まで、100点以上の哲学者・宗教家の肖像を用いて初めて体系的に語る、空前絶後の教養書。巻頭・巻末に古代ギリシャから現代まで、3000年に及ぶ哲学者・宗教家の人物相関図(ジャバラ)付き。」
と、ダイヤモンド社さんのサイトからコピペしましたよ。だから間違いは、ない。
哲学や世界史にまるで明るくない私が猛然と読み進んでしまったのは、先人に対する著者の愛です。それぞれの生まれた時代背景や環境を背負って、「人生」や「宗教」と真摯に向き合うわけです。ときに流されまたは抗い、名をなす哲学者もあれば不遇に終わる才人もある。そして、各人の営みは大きな流れの中にあるという俯瞰の目線がまた魅力的です。ポツリポツリと断片的にしか知らなかった人物や知識が、線になり面へと広がる。読んでいて熱く感じるあの快感を何というのでしょう。知恵熱?
流れを味わいたいので、前回読み終えた箇所からさかのぼってまた読み進める、これを繰り返しました。通読3回分くらいしてそうです。同じ場所でも読むたびに「あー、なるほど」と新しい発見があります。あれ? こちらの理解力が足りないのかな。うーん、やっぱり、また読もう。
『暗殺者』(上下巻)
ロバート・ラドラム、山本光伸訳/新潮文庫
もう一冊は、オマケ。というか大いに難ありの作品をご紹介します。「難あり」の理由は、後ほど。
ラドラムは1970~90年代にかけて活躍したアメリカの作家です。本作が、マット・デイモン主演のヒット映画『ボーン・アイデンティティー』シリーズの原作といえば、面白さは伝わるでしょうか。でも内容は映画とぜんぜん違います。しかも、小説の方が断然面白い。読んだことのある皆さん、そうですよね!?(おお、大きな拍手が聞こえる…)
僕はいったい誰なんだ? 嵐の海から瀕死の重傷で救助された男は、いっさいの過去の記憶をなくしていた。残されたわずかな手掛かり――整形手術された顔、コンタクト・レンズ使用痕、頭髪の染色あと、そして身体に埋めこまれていた銀行の口座番号――は、彼を恐ろしい事実へと導いていく。自分の正体を知るための執拗な彼の努力は、彼の命を狙う者たちをも引き寄せることとなった……。」(上巻あらすじより)
この上下巻が、絶版なのです! 大いに難あり!!! 中古を探してでも読む価値ありです。世界的な大ベストセラー作家なのに、日本では評価がイマイチなんでしょうか。憤懣やるかたない気分です。マイ生涯ベストワン!とも言えるこの作品を、どこかの出版社がまた発売してくれないかなあと切望して、これを書いています。ジェイソン・ボーンシリーズだけでなく、ラドラム作品のどれもこれもぜーんぶ出版してくれれば、家に居続けていても全く苦じゃないはずです。まずは集英社インターナショナルさん、そこんとこ、どうなのかな?
どうやら長いトンネルになりそうです。穏やかに健やかに生き延びましょう。皆さん、ご無事でお過ごしください!
たてかわだんしょう 落語立川流所属の落語家。
1965年、東京都出身。早稲田大学法学部卒業後、92年に立川談志に入門。96年、二つ目になり6代目立川談笑を襲名。2005年に真打昇進。従来の古典落語に大胆かつ緻密な工夫を施し人気を集め、立川流四天王のひとりとして活躍。出囃子は『野球拳』。高座だけでなく、テレビやラジオのレポーターとしても活動中。