コロナブルーを乗り越える本 酒井邦嘉
酒井邦嘉さん(言語脳科学者)は、 現在の状況に疲れたわれわれにとってのカンフル剤となる小説と孤独感に苛まれたり、テレワークに疲れたときに効く詰め将棋の世界を紹介します。
※この記事は、集英社インターナショナル公式サイトで2020年4月21日に公開された記事の再掲載です。
『絶品! 4×4マスの詰将棋』
伊藤果/マイナビ将棋文庫
テレワークやネット会議に疲れ、一人で煮詰まったり、孤独感に苛まれたりする時には、孤高のソリティア「詰将棋」がある。駒の動かし方を知っていても詰将棋には縁遠かった人には、究極の一冊。著者自ら「箱庭」と呼ぶ、4×4の限られた枠内の初期配置から、詰将棋の魅力が溢れ出す。まずは第1章の3手詰めから。中級者は問題図を記憶して、暗算(図や盤を見ずに脳内で解くこと)に挑戦してみたい。これぞ指し将棋に強くなるための極意でもある。詰将棋解答選手権・チャンピオン戦(今年は残念ながら中止)で5連覇中の藤井聡太七段も、「箱庭」作品をいくつか創っており、今後が楽しみだ。
『盤上のフロンティア』
若島正/河出書房新社
現代を代表する詰将棋作家による、最新の作品集。著者自ら「詰将棋にはまだまだ未開拓のフロンティアが広がっている」、「将棋盤という一見狭そうに見える世界は、とても一人では探索しきれないほど広大なのだ」と語る。この本の素晴らしさは、「自分で問いを立て、自分でその答えを見つける」という創作の過程が惜しみなく言語化されていることにある。そして、「詰将棋では、現実に起こらないようなことでも、必ず実現できる」という力強い言葉に勇気づけられる。江戸時代には『将棋無双』や『将棋図巧』のように、創造的で奥深く、そして芸術的で美しい図式集があった。閉ざされた環境で、しかも制約が大きければ大きいほど研ぎ澄まされる人間の創造力の極致を鑑賞したい。
さかい くによし 言語脳科学者、東京大学大学院教授。
1964年生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。1996年マサチューセッツ工科大学客員研究員、2012年より現職。第56回毎日出版文化賞、第19回塚原仲晃記念賞受賞。脳機能イメージングなどの先端的手法を駆使して人間にしかない言語や創造的な能力の解明に取り組んでいる。
著書に『チョムスキーと言語脳科学』『言語の脳科学』『科学者という仕事』『脳の言語地図』(明治書院)など。