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#036 「動物王国」でサファリツアー経営30年【ケニア】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~

お名前:船岡美保さん
ご職業:サファリツアー会社経営
在住地:ナイロビ(1990年~)
出身地:香川

8年間ケニアに通ったライター時代

――ケニア在住30年以上の船岡さんですが、元々はなにをしていたんですか?

 東京でフリーライターをしていました。1970年代後半、ちょうど高度経済成長の時代ですね。大学を卒業して、編集プロダクションに入りました。ライターとして情報誌や社内報などに関わって、最終的にフリーライターとして旅行雑誌などに記事を書くようになりました。

――ケニアとの出合いはなんですか?

 1982年に旅行に行ったことがきっかけです。小さい頃から動物が好きで、アフリカに憧れを持っていたんですね。フリーライターとして活動していくにあたり、「みんながよく行く国に行っても仕方がないのでアフリカに行こう」と、半分遊びで訪れました。結果、そこは私が小さい頃から憧れていた、野生動物に溢れる国でした。それ以降、日本で10カ月間働いて、残りの2カ月間はケニアの首都ナイロビで生活するスタイルを8年間続けることになったんです。

――8年間…!  ケニアに通い続けた理由を教えてください。

 1番の理由は、自分が育てていたチンパンジーに会いに行けることです。ある時、タンザニア人の友人がザイール(今のコンゴ)のマーケットで違法に売られていたチンパンジーの赤ちゃん3頭をナイロビまで連れてきたんです。3頭はナイロビの動物孤児院に引き取られたんですが、母親がいなくて凄く弱っていたので、なんとか頼み込んで私がお世話をすることにしました。この3頭に会いに行くために、毎年通っていました。チンパンジーの友達ができるなんて、そんな貴重な体験はないですからね。

「最後の渡航」と決めたはずが……

――8年通ったケニアに、ついに移住した理由を教えてください。

 もともと移住するつもりはありませんでした。実は8回目のケニア渡航で、お金もかかるので「これで最後にしよう」と思っていました。でも、そのときケニア在住のインド人に日本人向けの旅行会社を一緒にやろうと誘われたんです。ちょうど当時の日本はバブルで、ケニア旅行の需要がありました。ケニアのサファリに通い詰めていた私は、どの日本人よりも知識があると自負していたので、これなら食べていけるかもしれないと思い、誘いに乗ることにしたんです。でも、結局そのインド人に騙されて、その後一緒に会社を始めたドイツ人にも騙されて、最終的には自分で旅行会社を立ち上げて、今に至ります(笑)。

――そんなに騙されて、なぜ日本に帰らなかったんでしょう?

 当時の日本はバブルの終わり頃で、いい仕事があまりなさそうだったんです。バブル期はどの会社もお金が余っていたので、ライターや編集の仕事も単価がよかったんですが、それもどんどん減っていくのが目に見えていました。でも、なによりも自分の知識を生かせるサファリツアーの会社をやりたかったのが一番の理由ですね。

船岡さん。動物愛がすべての活動の原点だ。

マサイ族との信頼で成り立つ仕事

――サファリツアーの会社では、どんなお仕事をされているんですか?

 日本人観光客やケニア在住日本人のサファリツアーをアレンジしています。時代と逆行して、インターネットにはほとんど情報を出していません。

――それはなぜでしょう?

 そもそも必要がないんです。うちの場合は、お客さんのほとんどがリピーターです。30年間毎年ケニアにいらっしゃるようなカメラマンさんや、彼らの口コミや紹介で来てくれるお客さんが多いので、インターネットで不特定多数に知ってもらう必要がないんです。

――なるほど! サファリツアーを提供する上で、大切なことはなんですか?

 なによりも現場の情報が大切です。ここで差が生まれます。
 例えば、ツアーを運転するドライバーによって、場所は同じでも体験は変わります。一般的な旅行会社は、ナイロビ在住のドライバーが出張してきてツアーを回ることが多い。一方、うちはサバンナに住んでいる信頼できるドライバーに協力してもらいます。
 マサイマラ国立保護区であれば、信頼できるマサイ族のドライバーにお願いします。現地に住む人々は現場をよく知っているので、「あそこにいるヒョウのお腹が大きくなってきた(子どもが生まれそう)」といった情報を教えてくれます。うちは、そうした生の情報とお客さんのやりたいことに応じてゼロからプランを組んでいきます。だから、他の会社と比べて見るもの・体験することに違いが生まれるんです。

船岡さんのツアーの一幕。
船岡さんのツアーでは、通常ではありえない至近距離で動物を目にすることができる。

マサイ族もスマホを持つ時代

――30年住んでいる船岡さんからみた、ナイロビの変化を聞きたいです。

 便利になりましたね。通い始めた当時はまだケータイも普及しておらず、固定電話でした。しかも、地上に出ている電話線がよく盗まれてしまうので、全然繋がらなかった。それが今ではほとんどの人がスマホを持っていますし、Wi-Fiも日本より飛んでるんじゃないかっていうレベルです。それこそサバンナの中でも飛んでいるので、マサイ族もみんなスマホを使ってます。ケニアでは「M-PESA」と呼ばれる電子決算も普及したので、スーパーでもどこでもスマホで決済していて、マサイ族のドライバーへの送金も電子決算で行ったりします。

――もはや都会になったナイロビの生活、率直にどうですか?

 私としてはつまらなさも感じますけどね(笑)。やはり便利になってくると、他の都会と変わらない生活になってしまうので、ケニアにいる意味、ケニアならではの面白みが減ってしまいますよね。もちろん、いまだに停電したり、水道が出なくなったりと頭の痛くなるようなことはおきますが、良い意味でのトラブルと言いますか、「アフリカにいる」ことを感じる出来事が減っていくのは寂しいですね。

都市と自然が混じり合うナイロビの景観
Alexmbogo, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons

いまナイロビで起業するなら「パン屋」

――ケニア生活の中で驚いたことを教えてください。

 たくさんあります。例えば、銀行預金の金利はあまりに違っていて驚きますよ。ちなみにどれくらいだと思いますか?

――日本はもうほぼゼロですからね。2%くらいですか?

 なんと年間10%ほどです。100万円銀行に預ければ1年で10万円、5,000万円なら500万円増えるんです。すごいですよね。

――羨ましい……国の勢いを感じます。経済発展は肌で感じますか?

 そうですね。これまで低所得者が多かったケニアで、中間層が年々増えているので、そこに向けたビジネスやITスタートアップなどへの投資も増えています。私も現地の商工会に入って30年になるんですが、ここ5年で起業数も2倍に増えて驚いています。ITは飽和状態ではありますが、基本的には競争相手が少ないので、日本に当たり前にあるサービスをケニアに持ってくるだけでも、そこそこ上手くいく可能性はあると思います。

――ちなみに、今ナイロビで起業するならどのジャンルがおすすめですか?

 個人的にはパン屋を誰かにやってほしいですね、切実に。いわゆる「町のパン屋さん」は、こちらはまだ少ないんです。私も絶対リピートしますし、誰かやりたい若者がいれば出資したいくらいです。

第三の人生は動物保護へ

――今後について教えてください。

 これまで動物好きが高じてケニアに来て、動物のおかげで私の仕事や生活もあるので、なにか恩を返していきたいと思っています。ライターをしたのが第一の人生で、ケニアで旅行会社を営んだのが第二の人生だとして、第三の人生は動物保護をしていきたいと思っています。今は、コンゴにあるチンパンジー孤児院で生活することが夢ですね。

――なぜコンゴなんですか?

 チンパンジーが道具を使うことを発見をしたことでも知られている、世界的な動物行動学者のジェーン・グドールさんという方がいます。私にとっては大学生のころから憧れの女性です。そんな彼女がケニアに来た時に知り合い、一緒に食事をしたり、彼女の秘書とも連絡が取れる関係になりました。彼女はコンゴでチンパンジーの孤児院を運営していて、そこは孤児になったチンパンジーを保護・治療した後に、最終的に施設が買い取った島(自然)に返す活動をしています。私もそこで生活しながら保護活動に協力したいなと思っています。これがいま、一番したいことですね。

お金だけだとつまらない

――船岡さんのように、世界を軽やかに生きる知恵があればぜひ教えてください。

 思い出に残るような経験をしていってほしいと思います。最近日本では貯金をする若い人が多いと聞きました。もちろんお金も大切かもしれませんが、特に身体が動く若いうちは、貯金よりも思い出が残るような経験をした方がいいこともあります。今の歳になって実感してますが、もちろんお金もあった方がいいけれど、人生を振り返った時に思い出がたくさんあった方が絶対楽しいんですよ。ほんとうに。むしろ歳を取って残っているのがお金だけなのはつまらない。若いうちは、いろんなことをやって、試す。そうすると、いつのまにか自分の好きなことでお金を稼げるようになっていることもあります。楽しいと思えることで人生が成り立つようになったら、それが最高だと思いますよ。

取材:2023年7月
写真提供:船岡美保さん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです

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聞き手

おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。

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