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コロナブルーを乗り越える本 宮田珠己

作家、エッセイストの宮田珠己さんが紹介する3冊には空襲、自転車、想像上の生物が登場。それらの本には、不安な時代を生き抜く術や、日常への視線を変えるものが描かれていました。

※この記事は、集英社インターナショナル公式サイトで2020年4月14日に公開された記事の再掲載です。

『東京焼盡』

内田百閒/中公文庫

コロナ_宮田珠己さん_書影差し替え

空襲で焼けていく東京に住まいながら、その日常を飄々とつづった日記。毎晩のように鳴る空襲警報におびえているのかいないのか、どこか戦争を他人事のように書く強靭な筆致には驚くばかり。恐がりの百閒のことだから、おそらくは書かれているよりずっと不安な日々だったのではないかと思うのだが、それを感じさせないのは筆の力なのか、それともそれが日常となると慣れてしまうのか。コロナ危機の今読むと、勇気がわいてくる。
焼夷弾で家が焼けてしまっても、近所の家の庭に立っていた広さ三畳の掘立小屋を借りて住みつき、そのまま三年間もそこで暮らすという、当時すでに五十六歳だった百閒の飄々と生きるしたたかな姿に、生きてりゃいいんだ生きてりゃ、と背中をどやされたような気がするのだ。


『こぐこぐ自転車』

伊藤礼/平凡社ライブラリー(電子書籍のみ)

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六十歳をこえてから、自転車に乗り始めた老人の面白おかしい自転車エッセイ。百閒の飄々とした文体に似て、自分を突き放して客観的に描写するところに不安な時代を生きるヒントがある気がする。
なかに「心臓がおかしくなって死ぬかもしれなくなったこと」という掌編があり、もともと著者には心臓の持病があってペースメーカーをしているのだが、自転車旅の途中の宿で脈が速くなり、それがいつまでも収まらないため、みるみる心配になってパニックになっていく様子が書かれている。もちろん最終的には死なないし、読んでいる側はさほどシリアスには感じられないのだが、当人はその瞬間は死の恐怖にとりつかれていたはずで、自分のパニックを笑いに変える、つまりネタにすることで精神のバランスを保つというのは、結構使える技術ではないかと思いながら読んだ。笑いって大切だ。


『驚異と怪異 想像界の生きものたち』

山中由里子 (編集)、国立民族学博物館 (監修)/河出書房新社

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昨年、世界中で産み出された想像上の生きものを集め話題になった国立民族学博物館の企画展『驚異と怪異 想像界の生きものたち』の図録。カラー写真が豊富で、パラパラ眺めているだけで時を忘れてしまう。自宅にこもって退屈したときにもってこい。巨人や人魚、カブトガニの精霊に、首長天使、人面有翼の天馬、頭のなる木などなど。世界には得体の知れない生きものがたくさんいるものだ、って全部想像だけど。
そういえば、疫病退散のご利益があるとして、コロナ禍で一躍有名になった妖怪アマビエは、実際にコロナの感染を防げるはずはなく、誰も本気で信じちゃいないけれど、厚労省の公式ツイッターにも登場した。無駄とわかっていても人間は想像の世界に心の拠りどころを求めてしまうものなのだ。本気で頼っているわけではない。けれどそれはある意味、祈りや願いが凝縮した姿と考えることもできる。人間、お金と理屈だけでは生きていけないってことですね。

みやた たまき 作家、エッセイスト。
1964年 兵庫県生まれ。大阪大学工学部卒業。
サラリーマンを経て『旅の理不尽 アジア悶絶篇』でデビュー。『東南アジア四次元日記』で、酒飲み書店員大賞を受賞。2017年度から2年間朝日新聞の書評委員を務めた。『無脊椎水族館』『ニッポン47都道府県正直観光案内』など著書多数。共著に『日本の路線図』など。

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