見出し画像

#007 常連だったコーヒー屋の店主に【ニュージーランド】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~

お名前:栗原賢太郎さん
ご職業:コーヒーショップ経営
在住地:オークランド(2007年~)
出身地:大阪
コーヒーショップ「Dear Deer Coffee Roasting Bar, Whangaparāoa」
deardeercoffee.co.nz
Instagramhttps://www.instagram.com/ken_yuka_dear_deer_wgp/
Twitterhttps://twitter.com/aotearoaholic

選んだ理由は「小さいから」

――ニュージーランドと出合う前はなにをされてたんですか?

20歳から2年間、大阪で土木関係の仕事をしていました。会社の先輩たちと遊んでいる中で「海外に行ってみたいんですよね」と話していたら、ある先輩がワーホリの存在を教えてくれたんです。彼はそのとき社員になって行けなかったから「お前が行ってこいよ」と言ってくれたんです。ワーホリなんて聞いたこともなかったんですけど、いいなと思って行くことにしたんです。

――ニュージーランドにした理由はなんですか?

初めはオーストラリアにしようと思ったんですけど、国がでかいし初めての海外だったのでなんか不安だったんですよね。でも地図でオーストラリアの横を見たら、小さい国があってそれがニュージーランドだった。「なんかこの国だったらいけるんじゃないかな」って思ったんです。

――小さいからって面白いですね。「移住したい」という想いはワーホリの際に芽生えたのでしょうか?

そうですね。ワーホリと言ってもほとんどホリデーだったんですけど、最後の3カ月くらいはお金が尽きたので、りんごとかの収穫の仕事が盛んなネルソンという街に働きにいったんです。そこで知り合った日本人から「移住」という選択肢もあるんだってことを教えてもらって「いずれ住みたいな」と思うようになったんです。振り返ってみると、ワーホリも移住もいろんなご縁によって道が開かれたんだなと感じます。

ワーホリ時代の栗原さん

「遊ぶために働く」そんな姿に憧れた

――当時、ニュージーランドに惹かれた一番の理由を教えてください。

やっぱりライフスタイルだと思います。一番印象に残っている景色があって、ネルソンにある広い綺麗なビーチで、平日の昼間からたくさんの人がビーチで寝転がっていて。こういうライフスタイルって日本では難しいなって思ったんです。そこに憧れを抱いたというか。日本人は生きるためにお金を稼ぐ、場合によってはお金のためにお金を稼ぐっていうのがあると思うんです。ニュージーランドでは遊ぶために働く人が多くて、働くことは自分の生活を豊かにするための手段でしかないっていう考え方があるような気がします。当時、自分の将来を考えた時に日本で定年まで忙しく働く人生があまりイメージできなくて、ニュージーランドなら自分の将来の姿がぼんやり見えたというか、ここだったら楽しく暮らし続けられるんじゃないかなって思えたんですよね。

――たしかに平日からビーチはいいですね。ただ、いざ移住となると準備が必要ですよね。移住の経緯を教えてください。

それからオーストラリアにもワーホリに行ったんですが、改めてニュージーランド移住の意思は固まりました。でも移住するからにはお金が要るなって思ったんです。ワーホリから帰国して勤めたのが自動車メーカーの生産管理技術部門。そこで派遣社員として働いてました。それでなんとなく1,000万円っていう目標を決めてひたすら仕事をしたんです。1,000万円あればなんか小さいビジネスもできるし、本当になんとなくで決めました。それで、当時は残業とかもどんどんやる時代だったんで、朝から晩まで15〜18時間くらい働きました。派遣なので働いた分だけお金になって、給料も結構よかったんです。そこで5年間働いてお金が貯まったので、移住に踏み切った感じですね。

――すごいですね。実際に移住されてみてライフスタイルはいかがですか?

自分に合ってるなと感じますね。やっぱり気候がいいですよね。今暮らしているオークランドの年間平均気温は20度前後なんですけど、日本の夏より涼しくて冬は寒くないから過ごしやすいんです。あと国土が小さいのもいいですね。島自体が縦に細いので、太平洋とタスマン海、両方とも1時間ちょっとでいけて、たくさんビーチがあるので趣味のサーフィンも楽しめます。生活という意味でも、移住してしばらくは調理師として仕事をしてたんですが、決して給料がいいわけでもない。でも、全然苦労している感覚がなかったというか。なんとなくそういう感覚はフィットしてる感じがしましたね。

生き方を考え直すきっかけになったビーチ

好きなコーヒー屋に「家の近くにほしい」と言ったら……

――いまはコーヒー屋さんをされていますが、経緯を教えてください。

常連として通っていた「DEAR DEER COFFEE」というコーヒー店から、不意に多店舗展開を相談されて、勢いではじめたんです。このお店は30種類以上の豆から好きなものを選んで、その場で焙煎するというスタイルで、客としてすごく気に入っていました。オーナーとも顔馴染みで、よくお店で立ち話をしていたんです。自分で豆を買ってコーヒーを淹れるのが好きだった私にとって、このお店のスタイルはとても魅力的だったんです。

――お客さんだったんですね。そこからどうして始めることに?

唐突な提案でした。2020年8月二度目のロックダウンが終わった後、いつも通りお店でコーヒーを頼んでオーナーと話をしてたんです。その時に「新店舗を考えている」と話してたので、家の近くにあると嬉しいなと思ってた私は、「うちの近くに作ってください」とお願いしたんです。そしたらオーナーが「じゃあ、やってみません?」と提案してくれたんです。突然だったので驚きましたね。ただ、それまで調理師として仕事を続けてきて、これから10年先も同じ仕事を続けるかどうか考えていたタイミングではありました。それで妻に相談したら、「やったらいいんじゃない」とあっさり了承されて、すぐに動くことにしたんです。善は急げですね。その週末には物件探しを始めて、12月5日にはオープンしてました。

――お客さんから新店舗の店主になるってすごいですね。でも勇気がいりませんか?

ぼんやりと将来どうしようかなと思っていたので、どちらかというと光が見えた感覚でした。なんとなくいつか自分でお店を持ちたいとは思っていたのもあります。ただ、バリスタになるっていうのは想定外ではありました(笑)。でもコーヒーが好きだったし、家庭用のエスプレッソマシンも持っていたので「できるかな」って。あとは、「DEAR DEER COFFEE」のスタイルやビジョンが好きだったので、ついて行ってもいいかなと思えたのもあります。まあ、結構直感なんですけどね。

お店の前で奥さんと
店舗内の様子

休むことを勧められる・褒められる

――仕事をする中で感じる文化の違いはありますか?

とにかく言えるのは、店員とお客さんが対等ってことですよね。日本での接客って難しいじゃないですか。いきなりタメ口はよくないし、かと言って固すぎるのも違う。日本における「良い接客」ってすごくデリケートだと思うんです。こっちだとラフな感じというか、すごく精神的に楽なんですよね。フレンドリーって言葉で集約していいのかわからないけど、とにかく対等ですよね。場合によってはこっちに気を遣ってくれることも多い。

――どういう気遣いを受けたことがありますか?

たとえば、この前日本に帰国するために2週間くらい休んだんですけど、その知らせを事前にお客さんに伝えたら「2週間で足りるの? もっと休んだらええよ」って言われました。こっちだと休むことが褒められると言うか。これには驚きましたね。父親が焼き鳥屋をしてて、幼い頃からその働きっぷりをみてたんですけど、2週間以上休みをとってるところなんて見たことないんですよ。だから、そういうもんだと感覚的に染み付いてたのもあって、休むことが推奨されるのはすごく驚きましたね。

日本の読者に向けて

――今後について教えてください。

僕は昔からある景色とか変わらないお店とか、そういうのが好きなので、自分達もそういう存在になれたらいいなと思ってます。日本の駄菓子屋みたいにずっと昔からそこにあるのが当たり前というか。コーヒー店を細々とながく続けて、今のお客さんの子供たちが大きくなって、さらにその子たちが自分の子供を連れてくるくらい長くやっていきたい。時間が経過してもずっとそこにあり続けるような、そんなお店でありたいですね。

――最後に、ニュージーランドはどんな人におすすめですか?

「不便な方が暮らしやすい」みたいな方に合ってると思います。都会が好きって人には向いてないですね。何もないことを楽しめる人。ただビーチに転がっているとか、山をなんとなく歩いてみるとか、そういうことが好きな人じゃないとなかなか馴染めないんじゃないかなと思います。逆にいえば、そういうことが好きな人は価値観が合うと思いますね。

サーファーたちが集うビーチ

取材:2023年2月
写真提供:栗原賢太郎さん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです

↓「世界ニホンジン探訪」の連載記事はこちらから!

聞き手

おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。

更新のお知らせや弊社書籍に関する情報など、公式Twitterで発信しています✨️ よかったらフォローしてください(^^)