コロナブルーを乗り越える本 ウルフルケイスケ
ミュージシャンのウルフルケイスケさんは3冊をピックアップ。共通するのは今のこの場所ではないどこかへの移動(を考えるということ)。ランニングや旅もその例です。まだ、いつ明けるともわからないコロナブルーに移動が有効であることがわかります。
※この記事は、集英社インターナショナル公式サイトで2020年4月19日に公開された記事の再掲載です。
『BORN TO RUN 走るために生まれた』
クリストファー・マクドゥーガル、近藤 隆文訳/NHK出版
ランニングのいいところは体調面はもちろんだが、一番は頭がスッキリするところかなと思う。煮詰まったりした時はとりあえず考えるのをやめてランニングして頭をリセットしてみる。いいアイデアがすぐに浮かぶわけはないが、気分が少しだけ上向きになる気がする。
フルマラソンに挑戦したり走り始めてからランニングに関する本はたくさん読んだが、たどり着いたのがこの本。メキシコの“走る民族”タラウマラ族の話から始まり、走ることの科学的な説明や、実際のウルトラランナーのレースの話、走るための技術的なことより最終的にはヒトはなぜ走るのかというところに向かって話は進んでいく。
自分はテクニックよりも気持ち、スタイルより自由さを大事にして音楽活動をしているが、びっくりするぐらいこの本で紹介される走ることに対する考え方やイメージの仕方と、ギターを弾く時の気持ちと重なることが多い。スポーツでも音楽でもそれ以外のどんなジャンルでも、何かをクリエイトしたり挑戦したりするときに思い描いたりイメージすることの根本は同じなのかなと思う。
「人は年をとるから走るのをやめるのではない、走るのをやめるから年をとる」、どんなジャンルにも通じるいい言葉だ。
難しい事抜きで、読後感がフルマラソンを走ってゴールした後くらい爽快でスッキリな本。今はなかなか外に出て体を動かすことも難しい状況になっているが、コロナが早く収束して思いっきり深呼吸して思う存分走れるようになるといいな。
『旅をする木』
星野道夫/文春文庫
旅をよくする。
ギター1本抱えて北から南まで、待ってくれている人がいる町をめぐり音楽を届けるのが今の主な活動のスタイル。その移動中にいつも荷物の中に入っているのがこの本。アラスカを舞台に語り口は静かだが力強く綴られる文章、すごく簡単でシンプルだが味わい深い言葉。
今はなかなか旅をすることはかなわず、ずっと家に閉じこもっていると、近くを見過ぎて視野が狭くなって自分の中へ中へと入り込んでしまいがちになり、ついつい袋小路に突き当たる感覚に包まれてしまう。そんな時に、今日、明日という視点ではなく、10年、20年、もっと長い時の流れを感じながら今の自分を見つめる星野道夫さんの言葉にはっとさせられる。現実から逃避するのではないが、こういうときだからこそ俯瞰から自分を見つめる事も必要なのかなと思う。
鳥がついばみながら落とした種子が大木に成長して、雪解けの洪水にさらわれ、流木となり打ち上げられてストーブの薪になり、その煙がまた新しい旅の始まりになる「旅をする木」という話が好きだ。
『人生に、寅さんを。『男はつらいよ』名言集』
松竹/キネマ旬報社
ライブツアーで全国を旅していると、ふと寅さんと自分が重なるときがある。旅先でいろんな人と音楽に出会う。そんな時にいつも寅さんの「そう、心で歌え、心で」の言葉を思い出す。
先日ギターを弾き始めてから、初めて無観客配信ライブをやった。目の前にはカメラだけのステージ。その時も寅さんのこの言葉を心で噛み締めながらギターを弾いた。
ウルフルケイスケ ミュージシャン、ギタリスト。
1965年、大阪府出身。ロックバンド・ウルフルズのギタリスト、リーダーとして、1992年デビュー。バンドで活躍する一方、多数アーティストのレコーディングやイベントにも参加しながら、ソロ活動も精力的に行う。2018年2月、ソロ活動に専念するためウルフルズとしての活動を休止。現在は不思議でステキな出会い=マジカル・チェインをテーマに日本全国津々浦々を弾きめぐる。愛称は「ミスタースマイル」「笑うギタリスト」。