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「最前線のテーマをわかりやすい本に!」担当編集者が語る制作の舞台裏

「新書は独学の友」フェア、今回ご紹介するのは言語脳科学者の酒井邦嘉さんによる『チョムスキーと言語脳科学』です。

チョムスキーはアメリカの言語学者です。世界中の異なる言語すべてに共通したルールがあるとする「生成文法理論」を唱えました。

日本語にも、フランス語にも、スワヒリ語にも共通するシステムがあるなんて……どういうことなんでしょうか?
そんな疑問を追った本書について、担当編集者に聞きました。

言葉と脳に関する100の質問

本書の企画は、酒井邦嘉先生に「言葉と脳について100の質問に答えていただく」というところから始まりました。
「紙の本と電子書籍の違い」「多言語話者の脳はどうなっているのか」「言い間違い、読み間違いはなぜ起きるのか」「話すのが上手い人が文章もうまいわけではない理由」などなど、質問をする中でふと出てきたのが
「言葉はコミュニケーションのために進化してきたわけですよね?」
という問いかけでした。

ところが、それに対して酒井先生から返ってきたのが次の言葉でした。
「言語は、コミュニケーションのために生まれたものではありません」
編集者として、言葉を生業としてきた私にとって、それはとても衝撃的な答えでした。

では言葉はいかにして生まれ、使われるようになったのか、そもそも言葉とは何なのか、言葉の本当の姿を知りたい、この本はそうした素朴な問いから生まれました。
言葉に興味のある人に、ぜひ読んでいただければと思います。

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第1章の終わり近く、「言語は雪の結晶のようなもの」とあります。
いろいろな形をした雪の結晶と世界中の言語……共通点がありそうです。

独学本として

言葉ほど身近にありながら謎に満ちているものはありません。
チョムスキーの『統辞構造論』にすべての基礎が書かれているというのが酒井先生のお答えでしたが、その難解なことといったら! 

言葉の本当の姿を読者に分かりやすく伝えたいという思いから、いつもの編集作業と同じように「要するに、こういうことですか?」と酒井先生への質問を重ねました。しかし、チョムスキーの言語理論は複雑であるため「要するに」とひとことで言うことすらできない、というのです。

そこで「では、例えば…」と、ミンミンゼミの鳴き声や、自動販売機の構造など具体的にイメージできるものを例に説明を足していただきました。
「分かりません」「まだ分かりません」と、数学も物理も化学も中学レベルの私が理解できるまで、何度も何度も何度も何度も原稿の加筆修正をお願いし、「分かりました! 面白いです!!!」というところまで徹底的にかみ砕いて説明していただきました。

理解を助けるための図版も30点以上掲載しています。東大大学院で講義されている内容を、この本だけでしっかり理解していただけるよう、最大の工夫をしました。きちんと伝えたいという酒井先生の思いがすべてのページにこめられています。


読者のみなさんへ

「みにくいあひるの子」という童話があります。さて、みにくいのは誰でしょう?
「みにくい、あひるの子」なら、みにくいのは「子」ですが、「みにくいあひるの、子」なら、「みにくいあひる」を親にもつ子ということになり、みにくいのは「親」ということになります。

こうした違いはなぜ生まれるのでしょうか? そして私たちはこの違いをどうして区別することができるのでしょうか? 
言語機能は人間の思考の中核であり、「言語とは何か」という問題に答えることは「人間とは何か」ということを考えることでもあります。

「人間の本性」を言語脳科学はいかにして解明しようとしているのか、そのワクワクするような研究の最前線の成果をぜひご覧いただければと思います。


本の編集者は、自分の得意なテーマばかりを扱うわけではありません。
今回のように「くわしくはないけれど、調べてみたい!知りたい!」という気持ちで、編集者自身が独学に臨むこともあるんですね。

本書の裏側にある、そんな熱意を感じていただければうれしいです📕


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