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#022 派手さとゆるさが同居する、現在「永住最高難度」の場所【マカオ(中国)】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~

お名前:椿さん
ご職業:政府公認観光ガイド
在住地:マカオ(2010年~)
出身地:福岡
YouTube:
https://youtube.com/@MacauTsubaki

閉塞感から抜け出すため、単身海外移住

――マカオとの出合いを教えてください。

 最初のきっかけは知人からのアドバイスでした。元々私は東京の貿易会社で働いていたんですが、夜遅くまで残業することも多く、その割に給料も上がりづらい環境で、閉塞感があったんです。そんなときに、将来について知人に相談したら、「これからは中国。香港かマカオがおすすめ」とアドバイスをもらいました。2008年ごろですね。

——当時の中国や、その特別行政区である香港、マカオはどんな場所だったのでしょうか?

 当時の中国は経済発展の勢いがありました。その中でも、香港やマカオは比較的日本とも文化が似ていると教えてもらった記憶があります。ただ、香港は旅行で行ったことがあったものの、マカオに行ったことはなく、正直どんな場所かはあまり想像できていませんでした。でも、知人の話を聞いた時に、なぜか直感的に「マカオがいいな」と思ったんです。気づいたころには、仕事も辞めて、中国語の勉強を始めていました。マカオの旅行会社が人材を募集していたので、その勢いのまま履歴書を送りました。結果的に、無事に就職が決まり、身一つでマカオへ移り住むことになりました。

——勢いがすごい! どうしてすんなり移住へ踏み切れたのでしょうか?

 とりあえず日本を一度出てみたかったのかもしれませんね。貿易の仕事では海外のお客様と接する機会も多かったので、海外が身近に感じていたこともあります。また、私の世代は就職氷河期で、就職活動のころから挫折もたくさん経験しました。日本で働くことが合わなければ、海外に出てみよう。そんな想いが根っこにあった気がします。

派手なカジノの裏に広がる、牧歌的な世界

――移住当時の心境はどうでしたか?

 まずは海外に来ることができた喜びと、仕事が決まったという安心感が大きかったですね。

――結果的に、そのままマカオに住み続けている理由はなんでしょうか?

 私はマカオの「ゆるさ」が好きで、肌に合っているんだと思います。お隣の香港は、比較的日本に近いというか、勤勉でまじめ、長時間働く方も多いです。一方、マカオはどちらかというと「食べられる分だけ稼げればいいじゃん」という、いい意味で牧歌的な空気があります。スマホを見ながら接客する人もいますし、営業時間中に従業員が集まって賄いを食べてるレストランもあります。「従業員だっておなか空いたらご飯食べるのは当然でしょ」っていう感覚が、日本と違って面白い。なんだかそうしたゆるさが自分に合っていました。

——「ゆるさ」は意外ですね! 高級なカジノやリゾートが有名なので、むしろ逆の印象でした。

 マカオの魅力は、いろんな表情があるところなんです。カジノや大きなリゾートホテルなどのギラギラした一面もある一方、牧歌的でのんびりした場所が多くあります。旧市街の方に行けば昔ながらの乾物屋さんやお茶屋さんが並んでいて、南部のコロアン島あたりでは時間が止まったような町並みのなかで上半身裸のおじさんが接客をしてたりします(笑)。

——幅広いですね! 働く上でも「ゆるさ」はあるのでしょうか?

 もちろん会社にもよりますが、基本的に残業も少なく、定時に帰る人が多いですね。ちなみに、ガイドの私は基本的に現場に直行直帰です。日によってはお客様の出迎えと見送りだけをして2~3時間で1日の仕事が終わることもあります。もちろん、日本のお客様の場合はそれなりに丁寧な対応が要求されますが、私はそれはそれで苦手ではないので、すべてひっくるめて私にはマカオの生活が合っている気がしますね。

マカオの「ギラギラ」したカジノとリゾート
マカオの「ゆるい」街角

世界遺産の町並みと豊富なグルメ

――現在はマカオ政府公認のツアーガイドとして旅行会社で働かれているんですよね。

 はい、もう10年以上になりますね。人によっては一生に一度しかマカオを訪れない方もいらっしゃいますので、せっかく来てくださったからには最高級のサービスを提供したいという想いでやっています。

——観光面でのマカオの魅力をお聞きしたいです!

 ツアーで必ずご案内するのは、世界遺産の町並みです。歴史好きの方はもちろん、そうでない方も歩いているだけで楽しいのがマカオです。中でも一番の観光スポットは「聖ポール天主堂跡」という、石造りのファサード(建物の正面部分)しか残っていない教会の跡。実はここは日本人が建てた教会と言われていて、日本のシンボルが彫刻の中に隠されていたり、地下の納骨堂には日本人キリシタンの骨が収められています。ぜひ日本の方に見ていただきたいスポットですね。また、そこからマカオの中心、セナド広場まで歩いて10分くらいの距離なんですが、その道中に世界遺産の見どころがぎゅっと詰まっていて、食べ歩きスポットも多いので見どころです。

——マカオのグルメはどうでしょうか?

 朝はおかゆや麺類がおすすめですね。麺類はワンタン麺や牛バラカレー麺、焼きそばに焼きビーフンなど美味しい朝ご飯が色々とあります。ランチは飲茶、おやつにエッグタルト、夜はポルトガル料理(元植民地のため、ポルトガルの食文化が盛ん)が鉄板ですね。これらのお店も世界遺産エリアに集中してあるので、手軽に食べられます。ぜひ遊びにきてください!

聖ポール天主堂跡

人は優しく、政府は太っ腹

――移住して感じた文化の違いはありますか?

 席を譲る文化が定着しているのは、いい意味で驚きました。日本でもバスや電車で誰かに席を譲るのは少し勇気が必要だったりしますよね。でも、マカオではよく若者が年配の方に席を譲っているんです。こんなに人が優しいところなのか、と最初は驚きました。とくに私に子どもができてから、強く感じます。子どもを連れてバスに乗ると、すぐに誰か席を譲ってくれるんです。そうした環境で生活していると、自分も自然とだれかに席を譲るようになって、日本に帰った際もやるようになりました。日本では子連れの人たちがバスや電車に乗るときは気を遣うことも多いですよね。それに比べると子育てもしやすいと思います。

――すばらしいですね。ほかに日本との違いを感じることはありますか?

 社会保障がとても手厚いことですね。マカオはカジノで国が潤っていることもあり、例えば、妊婦さんや12歳以下の子ども、65歳以上の人は医療費が無料です。ガンの治療も無料になったりします。あとはマカオ市民に限った話なんですけど、毎年政府からインフレ対策や富の還元として1万パタカ(2024年5月時点の日本円で約19万円)が支給されるんです。

——住みたい!(笑)

 こうした施策もあってか移住希望者が増えて、今はマカオ市民になるのは世界で一番難しいとも言われています(笑)。例えば、他の国だとある程度の年数住んで、税金を払えば永住権が付与されたりたりしますが、マカオは何年住もうと自動的に市民権をもらえるわけではないんです。

——たしかに、国土が限られているから多くの移住者を受け入れるのは難しそうですね。

 そうなんです。実際に人口密度も世界最高クラスで、2023年時点で1平方キロメートルあたり2万人以上住んでいます。

——マカオに住んで15年以上の椿さんですが、マカオ自体の変化は感じますか?

 町の発展の速度に驚いています。この15年間で大型リゾートが次々と建設され、景観はみるみるきれいになっています。古い街並みも再開発が進み、より散策が楽しめるようになりましたね。日本にいた時代は大がかりな開発はあまり見なかったので、マカオの発展のエネルギーとスピードはすごいと感じます。
 例えば、カジノリゾートは40年前は海だった場所につくられたんです。私が住み始めた当初はまだ1つか2つしかなかったカジノも、今ではもうラスベガスのように建ち並んでいる状態。コロナ禍でも増設が進んでいて、勢いを感じますね。

世界には選択肢があふれている

――マカオに移住する前の自分にアドバイスできるとしたら、何を伝えますか?

 世界には選択肢がたくさんあることを伝えたいですね。生きづらいと感じたら、海外でも日本国内でもどこでもいいので飛び出していい。日本での当たり前が当たり前じゃない世界が外にはあります。もしいま、辛い気持ちを抱えている方がいるなら、今いる環境から出てもいいんじゃないかと思います。

取材:2023年8月
写真提供:椿さん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです

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聞き手

おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。


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