#028 念願の移住先は、神が舞い降りる離島!?【台湾】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~
お名前:宮坂大智さん
ご職業:NPO法人理事、旅行サービス業
在住地:澎湖(2014年~)
出身地:東京
テーマパークのような島
――宮坂さんが住んでいる澎湖(ポンフー)とは、どんな島なのでしょうか?
一言でいうと「台湾の良いとこ取りのテーマパーク」ですかね。台湾本島から飛行機で約1時間程度で、人々は温厚で、グルメも充実しています。自然遺産や文化遺産にもあふれ、台湾の人たちにとっては卒業旅行の定番スポットですね。日本で言うと沖縄に近いかもしれません。日本ではまだ知らない方も多い島ですが、一度訪れたら、ほとんどの人が好きになる場所だと思います。
――そんな澎湖との出合いを教えてください。
最初のきっかけは、国際島嶼学会という島に関する国際学会に参加したことです。その開催地が澎湖でした。私は2011年に「村おこしNPO法人ECOFF」というNPOを日本で設立して、離島をテーマにしたボランティアプログラムを各地で実施していたので、知人の紹介で学会に参加させてもらったんです。
――学会きっかけとは、珍しいですね! でも、なぜ移住しようと思ったんですか?
離島に関わる仕事を続けていて、将来的にはどこかの島で生活したいという想いがずっとありました。ただ、これまで数多くの島を訪れてきましたが、自分が住むとなると、なかなかピンとくる島には出合えませんでした。でも、澎湖は直感的に「良いかもしれない」と思えたんです。
――それはどのような点でしょうか?
一つは、移住のしやすさですね。澎湖では、長年住んでいる人々だけでなく、近年移住した人も島のコミュニティを形成しており、新規の移住者が受け入れられやすい環境なんです。さらに、ここは台湾の「県」なので、島内に県庁や病院、大学、移民局などの施設が揃っています。こうした要素を加味して、澎湖に移住することにしたんです。
多彩な観光名所の数々
――現在、澎湖ではどんなお仕事をされているんですか?
リモートで日本のNPOの仕事を続けながら、澎湖では旅行業に従事しています。旅行者向けにチケットやレンタカーの手配、ガイド、民宿経営などをしています。
――澎湖は「日本ではまだ知らない方も多い」とのことでしたね。
はい。現状、澎湖には日本の旅行会社は存在せず、私以外やる人がいない状況なんです。本当は好きなガイド業だけをやりたいんですが、旅行会社がないとせっかく来てくれた日本人旅行者には不便なので、全般のサービスを提供して満足してもらえるよう努めてます。
――まだ日本ではあまり知られていない澎湖、ぜひ見所を教えてください。
世界遺産級の観光名所でいうと、海岸沿いにそびえ立つ絶景として有名な柱状玄武岩や、魚を捕まえるために海の浅瀬に石でつくられた石滬(スーフー)などがあります。澎湖の石滬は、玄武岩とサンゴで作られていてとても珍しいです。数十年~百年以上前のものが500個以上残っていて、世界最多とされています。
あと、澎湖の干潟は台湾で一番広大で、潮がひくと5,6キロ先まで歩くことができます。干潟では魚やタコ、エビやウニなどをたくさん拾うことができます。楽しいですよ。他にも、台湾で最も古いお寺や、明の時代に作られた軍事施設があったりと、見所は尽きませんよ。
神様のお告げで建物が立つ!?
――印象的だった文化の違いを教えてください。
神様の存在が認められていることですね。澎湖は土地におけるお寺の密度が台湾で一番高いんですが、そこでは頻繁に「神がかり」があります。神がかりとは、儀式によって神様が人に乗り移ることで、その人の預言で物事を決めることがよくあるんです。街中を歩いていて、「この建物は誰が建てたの?」と地元の人に聞くと、「神様が建てろって言ったから建った」と言われることも珍しくありません。正直最初は意味がわからなかったのですが、移住してから神がかりの儀式を見たり、お寺のお手伝いをしていくうちに、徐々にそうした世界もあるのかもしれないなと思うようになりましたね。
――例えば、どんなものが神がかりによって作られるのでしょうか?
本当にいろいろあります。例えば、Instagramの「映えスポット」としても有名になった「天国の道」という場所もそうです。元々古い港で、新しい別の港ができて以降、もう使われていませんでした。そんな中で、神がかりにあった人が「古い港を直しなさい」と言って、つくられたのが「天国の道」なんです。
また、神がかりにあった人が海の中に入り、「ここにお寺を作りなさい」と言ったことがあったそうです。普通に考えて、海の中にお寺なんか作れないですよね。でもその後、偶然その一帯が都市計画で埋め立てられることになって、そこにお寺をつくることができるようになりました。なんだか面白いですよね。澎湖には200以上のお寺があるので神がかりの儀式も頻繁に行われていますよ。
持続的な島へ
――今後について教えてください。
この可能性に満ちた島でやりたいことはたくさんあります。そのひとつが「観光の質」に変化を促すことです。現状、年間100万人ほどの旅行者が訪れる澎湖は、オーバーツーリズムの問題も抱えています。旅行者が数多く訪れることは嬉しい一方、環境負荷も大きくなってしまいます。僕としては、経済規模をさほど変えずに生態系や自然環境に配慮した観光ができる島にしていきたいと思っています。時間はかかると思いますが、より持続的な島づくりに貢献していくのが目標ですね。
取材:2023年5月
写真提供:宮坂大智さん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです
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聞き手
おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。