#017 自然信仰に惹かれ、バルト三国初のお好み焼き屋に【リトアニア】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~
お名前:Rie Nonakaさん
ご職業:シェフ/ライター
在住地:ヴィリニュス(2020年~)
出身地:東京
Instagram:https://www.instagram.com/nnkrxx/
Podcast:https://podcasters.spotify.com/pod/show/rietuvalife
出合いは洋服のタグ
――リトアニアに興味をもったきっかけは?
学生のころ下北沢のカフェで働いていたんですが、近くのFog Linen Workっていう服屋さんによく行っていたんです。そこの服のタグに、リネンの生産地としてリトアニアが表記されていて、興味をもったのが最初のきっかけでした。
そこから色々調べていくうちに、バルト三国(バルト海の東岸に並ぶ三国)のひとつで、リネンの生産地として有名で、自然崇拝が強く、手仕事の産業もたくさん残っている国であることを知りました。もともと自然崇拝や手仕事に興味があったので、この国のことをもっと知りたいと思ったんです。
――リトアニアにおける自然崇拝ってどういうものですか?
日本でも「八百万の神」っていうように、お米の中や水、山など、さまざまなものに神様がいるという考え方があるじゃないですか。それに近い感覚です。リトアニアでも、リネンの生産の過程で「リネンの神様」っていう表現を使ったりするんです。
――日本の感性とリンクするのがすごく面白いですね。実際にリトアニアを訪問したのはいつですか?
1回目は学生時代に行った旅行です。あと、ノルウェーにも興味があって、ワーホリに行っていたので、そのワーホリ期間中にリトアニアを2回訪れました。そのときの体験がすごくよくて、住みたいと思うようになったんです。
Twitterでの出会いがきっかけで移住へ
――リトアニアに住みたいと思うようになった体験ってどんなものですか?
1回目の訪問は、夏至に行われるお祭り「ヨニネス」のタイミングでした。そこで、まさに自然崇拝の名残がある儀式を目にしたんです。ハーブを使った花輪や飾り物を身に着けたり、農民の暮らしを歌った曲でみんなで踊ったりしながら太陽の季節を祝っていて、とても美しかったです。
2回目は、3月に行われる「カジューカス祭」の時期でした。これは、リトアニアで一番大きくて歴史のある民芸市です。国中の作家さんたちが冬の間に作った手仕事の品物を売りに来るんです。これが本当に盛大で、おもしろかったです。手編みのカゴや木製の食器類、ウールの編み物まで、さまざまなものが売られているんです。もちろんリトアニアでも大量生産された雑貨は売られています。でも、たくさんの人がわざわざ手作りの品をカジューカス祭に買いにくるんです。その価値観に惹かれましたね。
――素敵ですね。そこからすぐに移住されたんですか?
リトアニアに住みたいと思いつつも、ひとまずノルウェーでのワーホリを終えて、日本で働きながらチャンスをうかがっていました。そのうち、リトアニアでもワーホリができるようになって、「きた!!これは住める!」って思って、お金を貯めはじめたんです。そして、2020年にリトアニアにワーホリに来ました。
ワーホリ中はフリーランスのライター業をしながら暮らしていました。ビザが2021年の10月までだったので、帰国が近づくにつれて、その後の人生をどうしようか考えはじめました。
今もそうですが、日本に帰って身近にある植物を使って染め物や編み物をしつつ、半自給で暮らしたいという想いもありました。その一方で、リトアニアという刺激的な環境で暮らし続けたいという気持ちもあり、悩んでいたんです。
そんな時、Twitterを通じて「リトアニアにバルト三国初のお好み焼き屋をつくりたい」という女性と知り合いました。何度か会う間柄になって、その人に軽いノリで「誰も見つからなかったら私を雇ってください」って言ったら、本当にオファーをくれたんです。迷いもあったんですが、「面白そう」っていう直感と、まだ30歳にもなってなかったので「もう一度横道にそれてもいいかな」っていう想いから、リトアニアのお好み焼き屋で働く選択をしたんです。
甘党の国のお好み焼き屋
――現在もそのお好み焼き屋さんで働いているんですよね
はい、お好み焼きレストランでシェフをしています。お店のメニューはお好み焼きと焼きそばに加えて、スナックや和菓子などのスイーツ。メインの仕事はシェフなんですが、小さなお店なので接客や在庫管理、メニュー開発など、いろいろしてますね。
――日本との違いを感じることはありますか?
リトアニアの人は日本とは味覚が全然違って驚きました。こっちの人は基本的に甘いものが好きなんです。リトアニアでは中華料理も全部甘めな味付けになっていて、「リトアニアン・チャイニーズ」って呼ばれるくらいです。実際にうちの店でも甘めの味付けをした鶏そぼろ丼を出したのに、「全然味がしない」って言われることがあって「まじで?」って衝撃でした(笑)。
うちのお店はお好み焼きと焼きそばは甘くせずに日本風の味付けで提供しているので、たまにレビューで「焼きそばが味がしない」って書かれることもあります(笑)。
気球が日常的に飛んでいる
――生活面で驚いたことはありますか?
夏によく気球が飛んでることですね。気球が飛んでる街ってトルコのカッパドキアのイメージしかなかったんですけど、ヴィリニュスでも普通に飛んでます。初めて見たときはびっくりしましたね。飛んでない日もあるんですけど、多い日は10機くらい飛んでます。リトアニアの夏はすごく日が長いので、夜の9時くらいに夕焼けになるんですが、その時間帯に飛んでる気球はすごく幻想的で綺麗です。私は高所恐怖症なので乗れませんが(笑)
――ほかにカルチャーショックがあれば教えてください
スーパーや空港のスタッフの愛想が悪くて驚きました。今は慣れたんですけど、はじめてきたときは「誰も笑ってくれないし、怖い」って思いました。だいたい怖いのはおばちゃんです。これは推測ですが、旧ソ連時代は余分な仕事をする必要がない社会だったので、笑っていようが笑っていまいが関係ないという人が多いのではないかと。でも、笑わない人は本当に多いです。
――そういう環境だと、Rieさん自身も笑う回数とか減ったりするんですか?
必要以上に笑わなくてもいいやって思うようになったかもしれないですね。リトアニアでは「やけに笑っていると馬鹿っぽく見える」もしくは「馬鹿にされているように見える」っていう人もいるらしいので、不用意に笑わないようになりました。もともと私はなんでも笑っちゃうタイプなので、気をつけようと思ってます(笑)。
行ってみないとわからない
――今後について教えてください
しばらくはお好み焼き屋さんで働くつもりですが、いずれはリトアニアで伝統的な日本の食文化を紹介していけたらいいなと思ってます。あとは、いつか日本に帰って、衣食住をその土地にあるものだけでまかなう地産地消の生活をしたいと考えています。そうしたことを実現できる場所や機会を、時間をかけて探していきたいです。
――海外に住むことに興味がある方にアドバイスがあれば教えてください。
興味があれば、ぜひ飛び込んでみたらいいと思います。私なんか万年貧乏で行き当たりばったりの人生なんですけど、それでもどうにかなりました。「いろんな経験をしててすごいね」と言ってくれる人もいるんですが、それは私が特別だったからではなくて、いろんな人との出会いのおかげでしかない。結局いろんな経験ができたのは「行ってみた」からだと思うんです。それぞれの環境の問題やタイミングがあるとは思うんですが、もし本当に海外に興味があれば、きっと道は開けると伝えたいですね。
取材:2023年2月
写真提供:Rie Nonakaさん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです
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聞き手
おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。