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「好きだと感じたものを、実際につくってみることから全ては始まる」

12月7日発売、『プロデュースの基本』の一部を短期連載で公開します!
今回は第1章より抜粋です。
沢田研二からBUMP OF CHICKENまでを手がけた著者の木﨑賢治さんは、
「好きだと感じたものを、実際につくってみることから全ては始まる」
と言います。

[2 なぜおもしろいのか、理由を分析する]

 子供時代の僕は「なんで?」という言葉を連発していました。それと同じぐらい言っていたのが「わからない」。周りの人たちに言わせると、今でも口癖のように言っているらしいですが、小学生のころからとにかくもう「わからない」ばかり。「なんでわからないの?」と聞かれれば、「だってわからないんだもん」と返していました。
 逆に言うと、「わかりたい」と思うからこそ「わからない」ことに気づくんですね。要は、答えが欲しいんです。

音楽で答えを出す
 僕は小さいときから数学みたいにひとつの答えが出るものが好きでした。答えが見つかることに安心感を覚えるからです。
 音楽は正解のないものだとよく言われますが、僕のなかでは、その時々の正解を常に探し当てているんです。
 音楽を聴いていてぐっとくるのはどこか、そして気持ちいいのはなぜか、感情を動かされる瞬間の秘密を突き止めたくなりますよね。その疑問を掘り下げていけば、そこには必ず納得のいく答えが隠されています。
 ただ、その答えは、時代とともに変化していく。だから音楽をつくり続けるということは、答えを探す旅を続けるということでもあるんです。

弾いてわかったぐっとくるコード進行
 音楽は小学生のころから好きでした。歌謡曲をよく聴いていましたが、五年生ぐらいでプレスリーが出てきて、なんだかすごいなと思ったんですよね。
 中学校のクラスに洋楽が好きな友だちがいて、その子とシングル盤を貸し借りして聴くようになってから、音楽っていいなあ、こういう曲をつくりたいなあと思うようになりました。それで、安物のアコースティックギターを親に買ってもらったんです。
 簡単なコードが歌詞に書いてある〝歌本〞と呼ばれていた音楽雑誌の付録を見て、当時のアメリカのヒット曲のコードを覚えて、弾いて歌っていました。そして、弾いているうちに「このあたりがぐっとくるな」というコード進行が、なんとなくわかるようになってきたんです。
 それは自分でこういう曲をつくりたいなと思って、自分でギターを弾いて、コードを覚えたからわかったこと。ただ音楽を聴いているだけだったら、わからなかったと思います。
 ぐっとくる、キュンとくるコード進行に気づいたのがきっかけで、ヒット曲の秘密が僕のなかで少しずつ解明できていったんです。

キュンとくる仕組みを数学的に分析
 最初にキュンときたコード進行は、CのキーでのE7でした。他にも、コードとメロディの関係でキュンとくるものとか、いろいろと覚えていって、そうした知識を基にして曲をつくり始めました。もともとが、いいと思ったら自分でもつくってみたいタイプですから、ぐっとくる曲をつくりたいと思ったんです。
 つくりたいと思うことで、いろんな構造が見えてくるんじゃないかと、僕は考えています。つくりたいと思う衝動だけが、いろんな発見に導いてくれます。
 まず、好きとか、カッコいいとか感じること。それをつくりたいと思うこと。そこから考える作業に入るわけですが、分析するという言い方が近いと思います。
 形があるものには構造があるので、それがどういう仕組みになっているのか、そのどの部分で自分はぐっとくるのか、キュンとするのか、けっこう数学的に分析できる要素が実は多いんですよね。
 とにかく自分の「好き」を分析することです。どうして自分はこれが好きなんだろう、と。それを考えているうちに、答えはいつか見えてくるものだと思います。

[3.ひとつの例で法則をつくっていい]

 答え、つまり理論、理屈がないと自分も納得できないし、人を説得することもできません。
 高校生ぐらいのころは、音楽を聴いて「これいいよね!」「うん、いいよね」だけでも会話が展開していくものだと思いますが、もっとたくさんの人にそのよさをわかってもらおうとすると、説明が必要になります。「なんでいいの?」「どういいの?」に対して、「これがこうで、こういう理由だから僕はこれが好きなんだ」と言えたら、今まであまり興味を示さなかった人にもいいなと思ってもらえるかもしれません。
 どんなに自分が好きだと思うものでも、それを伝えるうえでの理屈がないと、より多くの人には理解してもらえないんです。
 同じ曲を聴いても、人によって好きだと感じる部分も感じ方も違うはずですし、違っていていいのです。だからこそその理屈も、自分で見つけたものじゃないとダメです。自分の感性の上に自分の理屈を構築することが大切です。

「人は見かけ」という法則
 自分で見つけた答えが正しいかどうか不安だ、という人がいるかもしれません。僕は、ちゃんと感じて考えて見つけた答えなら、たとえサンプルがひとつしかなくても、それを〝法則〞にしてしまっていいと考えています。
 たとえば、人は見かけという法則。その人の生き方や経験してきたことは、全部見かけに出ているような気がします。
 僕は仕事する相手のプロフィールをあまり気にしません。だからこそ、その人と会って話している間に、この人となら一緒にやれるな、やりたいなと思えるかどうかがすべてになります。
そのときにやっぱり、見た目の印象というのは大きいんですね。
 たとえばギタリストやアレンジャーに関しては、見た目と出す音が一致すると僕は思っています。
 大澤(一九九九年までは〝大沢〞と表記)誉志幸くんの仕事をやり出したころ、アレンジャーを探していました。当時流行っていたデュラン・デュランとか、あのへんの感覚がわかる人とやりたいなと思っていたんですが、そのときにやってきたアレンジャーの人が、ちょうどそのあたりが好きだと言うんです。
 でも、なんだか違和感があったんですね。着ている服と髪型がちぐはぐというか、デュラン・デュランのイメージとは程遠くて。
「じゃ、デュラン・デュランのこんな感じでやろう」と制作に入ったんだけど、結局望んだ形にはなりませんでした。たぶん、同じ音楽を聴いていても、いいと感じるポイントが違ったんでしょうね。それで、予算オーバーになることを承知のうえで、その人とつくったものをボツにしたんです。見た目の違和感に従えばよかったな、と反省しました。
 わかりやすい例で言うと、髪が長くて明らかにL.A.ハードロックが好きそうなギタリストって、やはりL.A.ぽいひずんだ音を出すタイプの人が多いですよね。僕はある時期、ああいうひずみ方をするギターがあまり好きじゃなくなったんです。イギリスの音楽を聴くようになってから、同じひずみでもちょっと違う方向の音を求めていたから。そういう音を出す人は髪も短くてスタイリッシュでした。見た目と出す音は一致していると気づきました。
 つまり、自分のスタイルをアピールするうえでも見た目は大事ということですね。
 そういう経験からも、「これからは見た目で選ぼう」「人は見かけに全部出ている」というのを僕はひとつの〝法則〞にしました。

実行するために法則をつくる
 先ほどのE7というコードの話なんですが、昔、自分だけがE7がぐっとくるコードだと思っているのかなと不安になったことがありました。でも時々、人に曲を聴いてもらって「この曲のどこでぐっとくる?」と聞いてみると、だいたいE7だったりするんですよね。それで自分の感性が独りよがりじゃないと自信になったりしました。
 ベーシストでプロデューサーの亀田誠治さんと食事をしたときにも、E7の話で盛り上がりました。以前、彼がラジオでE7のことを「青春コード」と呼んでいるのを聞いて、一度話したいなと思っていたんです。
 僕は、こんなふうに最初に見つけた答えで〝法則〞をつくって決めつけてしまいます。これが学者さんだったら証明しないといけないので話は違ってくるんでしょうね。でも僕はつくる人だから、まちがっていてもまちがっていなくても、自分はこれで行くんだという答えを得たら、それで突き進めばいいんです。
 時間が経ってそれがまちがっていたり、軌道修正が必要だったりすれば、その都度直せばいい。答えは、バージョンアップしていけばいいんです。

[4 ひとつのものを深掘りすれば全体がわかる]

 僕は野茂英雄投手が大好きでした。野茂が大リーグに行ってから、大リーグを観るようになって、彼を通して大リーグを知ることができたんです。

野茂投手が紹介してくれた大リーグ
 最初に知ったのは、ロサンゼルス・ドジャースのトミー・ラソーダ監督の存在でした。この人が野茂のことを気に入ってくれて、ずっとケアしてくれたんですね。
 そして、次に知ったのがキャッチャーのマイク・ピアッツァ。この人、野茂のワンバウンドのフォークボールを逸らさずに捕ってくれるんです。しかも自分のプロテクターに当てて捕る。さらに、打席に立てばすごいホームランを打つ。それも野茂が投げる日によく打ってくれて、僕なんかは「なんていいやつなんだ!」と思っていました。
 それとは逆に、内野手のホセ・オファーマンという選手のことは、野茂が投げている日によくエラーをするのですぐに覚えました。
 味方のピッチャーの成績も気になり出しました。野茂よりよかったら、野茂がローテーションから外されてしまうんじゃないかと思ったからです。そうやって、僕はそれまで無縁だった大リーグの選手の名前をどんどん覚えていきました。
 次の段階になると、対戦相手の他球団の選手についても知っていくわけです。野茂からよくホームランを打つバッターなどです。名前も、成績も、球場の名称だって覚えた。こんなふうに野茂選手が僕に大リーグを紹介してくれました。

ひとりのアーティストから広がる世界
 音楽の世界も同じです。ひとりのアーティストを深く知ろうとするだけで、世界は広がっていきます。好きなアーティストが影響を受けたアーティストには、自然に興味が湧くものですよね。
 ライバルも然り、です。たとえば、自分が好きなアーティストがチャートで二位だったとしましょう。「なんで一位になれないの?」と考えたときに、一位のアーティストのことが当然気になります。そこで今の音楽の流行りだとか、好きなアーティストの立ち位置だとかがわかってくる。
 残念ながら、今はチャートがなんだかはっきりしなくなっていて、音楽が横に広がりにくいなと感じています。

Spotifyプレイリスト
木﨑賢治『プロデュースの基本』

木﨑賢治(きさき・けんじ)
音楽プロデューサー。1946年、東京都生まれ。東京外国語大学フランス語学科卒業。渡辺音楽出版(株)で、アグネス・チャン、沢田研二、山下久美子、大澤誉志幸、吉川晃司などの制作を手がけ、独立。その後、槇原敬之、トライセラトップス、BUMP OF CHICKENなどのプロデュースをし、数多くのヒット曲を生み出す。(株)ブリッジ代表取締役。銀色夏生との共著に『ものを作るということ』(角川文庫)がある。

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