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「昔の自分が好きだった古い音楽を、ずっと聴かないようにしていました」

12月7日発売『プロデュースの基本』、今回は第2章より抜粋です。
求めているからこそ、見えてくるものとは。そして、著者の木﨑さんが昔の曲を聴かない意味とは。

[5 切羽詰まると見えてくるもの]

 新しい組み合わせは、時間をかけて考え抜いた末に生まれるとはかぎりません。むしろ時間がなくて「いや、これは困ったな」と切羽詰まっているときに結びつくことが多い気がします。溺れる者は藁をもつかむという感じですね。

電柱の看板
 以前、歯が痛くなったときがあって、そういえば電柱に歯医者さんの看板が付いていたなと思い出して、電柱を気にしながら車を運転したことがありました。そうしたらちゃんと看板があって、車を止めて、電話番号をメモして、公衆電話を探して電話して、無事にその歯医者に行くことができたんです。
 いつも通っている道だったのに、僕はその看板の歯医者さんの名前は、まったく記憶にありませんでした。
 不動産屋だってそうです。引っ越しをしたいなと思ってはじめて、不動産屋の看板が目につくようになりますからね。
 人は自分が必要とするものが見えているだけなんじゃないかと思います。特に切羽詰まっていると、求めているものに気づきやすいということです。
 よく「私、ボキャブラリーがないんでうまく話せないんです」と言う人がいますね。でも、その人は本を読めるし、言葉の意味もわかっている。だから僕は言うんです、「でも、その言葉を読めるし理解できるでしょう。ただその言葉を使って言いたいことがないだけだと思うよ。ボキャブラリーがないわけじゃないと思うよ」って。
 その言葉を欲していれば、たとえば本のページにそれが書かれていたら見逃さないと思うんです。そしてきっと忘れない。求めていれば、見えてくる、聞こえてくる、そしてつかめるものが多くなると思います。

コンビニのヒントから生まれた曲
 松田聖子さんのプロデューサーだった若松宗雄さんが、新曲のレコーディングを済ませた帰り道に、次のシングルをどうしようかすごく考えていたそうなんです。
 当時は年に三枚も四枚も出すのがふつうだったから、制作に関わる人間は常に時間に追われていました。
 これは実際に若松さんから聞いた話です。
「次の曲のことをいろいろ考えながら、翌日の朝ごはんを買おうとコンビニに入ったの。すると流れていたBGMにピンときて、この曲調次のシングルにいいんじゃないかと思いついたんだよ。それから雑誌を立ち読みしていたら、〝夏カラー〞と書かれた見出しが目に飛び込んできて、色をタイトルに入れるのもいいかもしれない、と思いついて次の曲のアイデアがまとまったんだよね」
 もし切羽詰まっていなければ、きっと素通りしていたはずですね。ただのBGMだったはずの曲が、こちらが「つくらなきゃ」と焦っていると、ふと求めているものと結びつくことがあるんです。どんなものでも考えれば結びつかないものはないんじゃないかな、と思います。切羽詰まっていると、そのふたつを結びつける接着剤みたいな要素をおそらく見つけやすくなるんでしょうね。
 結局、人間って本当に欲しいと思っていれば、それをちゃんと見つけられるんですよね。逆に言えば、欲しいと思っていなければ見逃してしまうものだと思います。

ギリギリの勢い
 切羽詰まると見えてくる。そう考えたら、死を意識して生きている人はいろんなものをつかめるように思います。たとえば余命宣告を受けたら、その瞬間から急に濃い人生になるでしょう。ギリギリのところで生きているエネルギーは、いろんなものがスローモーションで感じ取れて、はっきりと的確につかみとることができるんだと思います。
 僕の知っている人のなかでは、BUMP OF CHICKEN の藤(藤原基央)くんは、いつもどこかで死を意識して生きている気がします。自分で追い詰めたくてそうしているわけではないんだろうけど、彼が生きる環境であったり、そもそもの生き方であったりが、そういう切羽詰まったもののなかにある感じがするんですよね。彼にはいろんなものが切実に見えていると思います。

求めていれば、見えてくる
 僕がBUMP OF CHICKEN のプロデュースを始めたころ、何人かの知り合いに「またこんないいバンド見つけられて、木﨑さんはラッキーですね」みたいなことを言われました。そのとき、僕はちょっとムッとしたんですね。なぜなら、ラッキーという一言で片づけてしまうのはあまりにも短絡的だと思ったからです。
 別の人にも同じことを言われたとき、こう言いました。
「違うんだよ。こういうバンドに巡り会いたいと具体的に頭のなかに描いていたから、出会ったときに見逃さなかったんだよ」と。
 興味のあるもの、自分が頭のなかでイメージしているものには、出会ったらすぐに気づくものだからです。
 僕はミック・ジャガーにもジョン・レノンにも会ったことが──正確にはすれ違ったことが、あるんです。彼らが好きで、僕の頭のなかにはその像がしっかり描かれていたから、見かけたときにすぐわかりました。逆に、向こうは僕を知らないわけだから、まったく印象に残っていない、つまり僕のことは見えていないも同然だったはずです。
 要は、アンテナを立てていれば、欲しいものが引っかかってくるのだと思います。

グローバルなマーケットを思い描いていたら
 2019年の夏のころだったと思うんですけど、夜中にツイッターのタイムラインを見ていました。
 僕はよく、自分が関わっているアーティストのツイートを見ているんです。どんなことに興味があるのか、今の心の状態はどんな感じなのか、何をしたいと思っているのか、そんなことが見えてくるからです。ときとして、そのつぶやきのなかに「それを詩にしたらいいんじゃない?」というヒントを見つけることもあります。
 その夜、たまたまですが、あるインディーズのアーティストのツイートが目に入ったんですね。なんだか気になって、そこに貼られていた曲を聴いてみたんです。
 僕はそのバンドに興味をひかれました。まず、女性ボーカルの声や歌い方がいい。歌詞が英語で発音もよくて、メロディのつくり方にセンスを感じたんです。
 ストリーミングの時代になってから、日本の音楽も外国の人に聴いてもらえるチャンスが増えてきています。CDが売れない今、グローバルなマーケットを意識しなければ、と思っていました。ちょうどガラパゴス化した日本の音楽に飽きていて、もともと洋楽が好きでいろいろと研究していたので、心にひっかかったんですね。
 僕は感想をダイレクトメッセージで送りました。
 2日後くらいに、返信がありました。アーティスト本人ではなく、事務所のマネージャーさんからで、「ぜひお会いしたい」と言ってくれたんですが、バンドはすでにその事務所に所属していて、メーカー(レコード会社)も決まっているとのこと。だから自分が関わる余地はもうないだろうと思いつつ、まずマネージャーさんとレコード会社の方と会って話をして、後日メンバーにも会うことになりました。
 そのバンドの名前はFAITHと言います。メンバーと話をしていくうちに、好きな音楽や方向性が似ていることがわかって、海外で流行っている曲のことや、曲づくりのテクニックについても少し話しました。会話が楽しく弾んで盛り上がり、一緒に作品づくりをしましょうという流れになりました。
 自分が頭のなかに描いているものがあると、見逃すことなく出会えるんだと改めて思いました。

[6 経験が邪魔をすることもある]

 多くの人にとって、中学生、高校生のころに聴いた音楽がいちばん衝撃的だったと思います。音楽知識も経験もなく、何かと比較することもなく、そのままズバッと全部を受けとめてしまう体験です。そのあとに出会っていく音楽は、やはり最初の経験と比較しながら聴くことになってしまいます。
 もちろん、僕も同じです。だけど、なるべく過去の作品と比べないように、ありのままをドンと受け取るようにしようと心がけています。

無理やりでも新しいものを
 人は保守的ですから昔好きになった曲はずっと好きだったりします。そのことに僕はすごく怖さを感じていました。音楽を仕事にしているので今を感じて、今を生きたいと願っているからです。だから昔の自分が好きだった古い音楽を、ずっと聴かないようにしていました。
 ただ、ある程度の年齢になったときに、もう聴いても大丈夫かなと感じるようになりました。それは昔の曲を聴いたときに、今の感性で受け止められたからです。古くさいと思うところと、今でもいいと感じるところを客観的に聴き分けられたから。
 ちょうどそんなとき、ポール・マッカートニーのライブに行ったんです。
 新曲、よかったんです。すごくよかった。ちゃんとアップデートしていて、今っぽい感じになっている。だけど、明らかに客席からの拍手が少ないんですね。どうしてみんながこれをいいと思わないんだろう? そのときに考えたのは、音楽は聴き手の世代のものかもしれないな、ということです。
 ポール・マッカートニーをずっと聴いてきた人には、こういう新しいアプローチは必要ないんだろうな、と。ポール・マッカートニーはがんばっていて、進化しているのに、聴くほうがそれを求めていないんです。
 みんながポール・マッカートニーを聴いて「泣いた」と言っている意味もわかりました。その音楽に、青春の思い出が重なったから泣いたんです。感性がもう新しいものを必要としていないんですね。
 一方では、人間ってそういうものなんだろうなとも思うんです。まっさらな青春時代に聴いた音楽がいちばんの衝撃で、あとはその思い出とともに生きるというのも、真っ当な生き方なのかもしれないな、と。僕の友人たちも、みんなそうです。彼らは昔聴いた音楽ばかり好んで聴いている。
 だけど僕はやっぱりそれに抵抗して、無理やりでも新しいものを求めていきたいですね。泣くなら昔の思い出と重ね合わせて泣くんじゃなくて、新しい曲を聴いて泣きたい。こういう仕事をやっているからというのもありますが、単純に新しい感動や驚きを味わいたいからです。

慣れないことが新しいパワーを生む
 一曲ヒットが出ると、そのつくり方が正解だと思って、ずっと同じ方法でつくってしまいがちです。でもルーティン化してくるとだんだん刺激がなくなってきて、いい曲ができにくくなります。ルーティンワークは楽かもしれませんが、ものづくりの敵なんです。
 ピアノでつくっている人はギターを弾いてつくってみる、コードを弾かないでつくってみる、曲が先だった人は詩を先にしてみる、あるいはメロディより先にトラックをつくる、というふうに方法を変えてみると、刺激や緊張感が出てきて、結果新しいもの、いい曲ができる確率が高くなると思います。慣れないこと、初めてのことにトライして生じる新たな困難に立ち向かっていると、手が抜けなくなってそれまで以上のパワーが生まれるんですね。
 ライブも同じです。同じ場所、似たような構成でやると、こんなものかと思ってしまって、テンションが上がらず、いいパフォーマンスができないことが多いんです。
 曲のつくり方も、ライブのやり方も、経験していないことに身を置くことが大切です。魚釣りと同じですよね。釣れなかったら餌を変える、場所を変える、道具を変える。音楽においても、いろいろ変えていくべきなんです。
 あるアーティストが、ライブには必ず新しいことを取り入れると言っていました。たとえば、それまでに弾いたことのないピアノに挑戦する。そのためにずっと練習をして、不安を抱えて本番に挑むと、ライブ全体が引き締まるそうです。
 また、ある世界的なギタリストは、ギターを弾かない時期を設けていると聞きました。練習しないと思うようにギターを弾けなくなります。レコーディングをするときは、一から運指の練習を始めて、滑らかに弾けるようになったらバンドのメンバーを呼んでセッションをして、曲をつくるそうです。このことで初めてギターを弾いた時のフレッシュな気持ちがよみがえり、いい曲、いい演奏ができるということです。

固執しないことが大事
 僕は行く店にはこだわりがあります。すごくこだわっていると言っていい。レストランでも洋服屋さんでもです。だけどずっと通い続けることはないですね。どこかで雰囲気が違ってしまって飽きてしまい、自然に距離ができてしまいます。
 それは、そのお店のスタイルがずっと変わらずにいることで世界観が古くなってしまうとか、反対に肝心のスピリットが変化してしまうとか、そんな理由であることが多いです。僕が受け止めきれなくなってしまうと、さようならすることになるんですね。
 だから風来坊のようにいつも店から店へと旅をしているような感覚です。ヤドカリじゃないですが、常に住む家を探している。それは面倒くさいことではあるんですね、また「こんにちは」と一から関係性をつくり上げなければいけないわけですから。
 でも、馴染みの店ができてしまうのは、僕にとっては危険信号なんです。行けば同じものが出てくる、その安心にどっぷり浸かってしまうと進化できないでしょう。お店との別れがやってこないと、自分は退化しているんじゃないかという不安に駆られてしまいます。世の中は絶えず進化しています。だから、僕は〝常連さん〞にはなりません。

Spotifyプレイリスト
木﨑賢治『プロデュースの基本』

木﨑賢治(きさき・けんじ)
音楽プロデューサー。1946年、東京都生まれ。東京外国語大学フランス語学科卒業。渡辺音楽出版(株)で、アグネス・チャン、沢田研二、山下久美子、大澤誉志幸、吉川晃司などの制作を手がけ、独立。その後、槇原敬之、トライセラトップス、BUMP OF CHICKENなどのプロデュースをし、数多くのヒット曲を生み出す。(株)ブリッジ代表取締役。銀色夏生との共著に『ものを作るということ』(角川文庫)がある。

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