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#034 バランスのとれた、「ちょうどいい」社会【スウェーデン】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~

お名前:Yokoさん
ご職業:大学職員
在住地:ストックホルム(1995年~)
出身地:東京

きっかけは大河ドラマ

――日本では何をされていたんですか?

 新卒で自動車業界に入って、その後は製薬企業の業界紙で記者をしていました。厚生省や病院関係者の話を聞いて、記事を書く仕事をしていました。

――もともと海外への関心はあったのでしょうか?

 10歳くらいのころからずっと「いずれは海外に住みたい」と思っていました。きっかけは、1970年代に放送されていた『黄金の日日』という大河ドラマです。ちょうど10歳前後のころによく見ていました。舞台は安土桃山時代なんですが、主人公は戦国武将ではなく、呂宋助左衛門(るそん・すけざえもん)という、フィリピンとの海外交易をはじめた実在の商人です。国をまたいで奮闘する彼のような生き方に憧れを抱いていたんだと思います。それから「将来は呂宋助左衛門のように、日本文化を海外に伝えたり、海外の文化を日本に伝えたりする人になれたらいいな」と漠然と思うようになったんです。

――どうしてスウェーデンだったのでしょうか?

 日本で知り合って結婚した人が、たまたまスウェーデン人だったんです。結婚を機にスウェーデンに移住しました。

スウェーデンはラーゴム(ちょうどいい)

――スウェーデンに移り住むにあたって、不安や葛藤はありませんでしたか?

 不安は全くなかったですね。

――なんと! それはなぜでしょう?

 ひとつは時代だと思います。私がスウェーデンに移住する少し前、バブルがはじけるまでの日本社会には、とても楽観的でポジティブな空気感がありました。当時は経済成長を背景に社会全体として「なんとかなる」といった雰囲気が漂っていたように感じます。私はその雰囲気の中で育って暮らしていたので、移住の決断にも影響を与えていた気がします。

――移住生活はどうですか?

 平等意識が強くて驚きましたね。日本に比べて、スウェーデンは誰に対しても平等に接することができる雰囲気があります。敬語やタメ口の使い分けが苦手だった私にとっても、バランスがよくて、心地よいですね。

――「バランスがよい」というのは、どういった点でしょうか?

 スウェーデンには「ラーゴム(ちょうどいい)」という意味の言葉があります。この言葉は、特定の誰かに権威が集中したり、しわ寄せがいくことを避ける傾向が強いスウェーデンを表すのにぴったりだと思っています。これは人間関係性や仕事と家庭、自然と街、男性と女性などなど、いろいろな「バランス」にもあてはまります。もちろん完璧な国など存在しませんが、私にとってスウェーデンは「自分に合っている」と思える国ですね。

建物と緑の「バランス」が調和しているストックホルムの街並み。

生徒と先生もフラットな関係

――現在のお仕事について教えてください。

 スウェーデンの大学で、国際交流の仕事をしています。国外の提携校との留学プログラムや、1つの授業を複数の学校の学生が一緒に受講できるプロジェクトを進めたり、幅広くプロジェクトを行っています。

――現在のお仕事についたきっかけを教えてください。

 移住した当初は、通訳やガイドなど、日本とスウェーデンを繋ぐ仕事であればなんでもいいかなと考えていたんです。でも、移住して1年ほど経過したころに、いま勤めている大学の日本研究所の職員が募集されていて、応募してみたんです。日本人で、元新聞記者だったこともあり、採用されたのかなと思います。その後、日本研究所から大学本体に移籍して今に至ります。本当に偶然で、運がよかったと思います。

――日本と比べて、スウェーデンの教育現場の雰囲気はどうですか?

 主体的に自分で考えて行動する生徒が多い気がしますね。さきほど話した平等意識にも繋がるんですが、基本的に先生と学生の関係がフラットなんです。日本でよく見られるように、先生が生徒に一方的に教える授業形態ではなく、先生と生徒が双方向にコミュニケーションしたり、グループワークを行う授業が主です。これは小学校から徹底されているので、結果的に先生の顔色を窺ったり、媚びたりすることなく、自分の意見を持って話せる生徒が多いのだと思います。

――それは教育現場だけでなく、ビジネスシーンでも同様ですか?

 はい。私の勤務する大学のトップは学長ですが、「学長」と呼んだことはなく、基本的にはファーストネームで呼んでいます。そこに役割の違いはあれど、上下関係は日本ほど強く認識されることはありません。スウェーデンの平等主義は男女、年齢、社会的な階層(上司と部下)に左右されません。日本のように上下関係がはっきりした国から来ると、慣れるまでは戸惑いがあると思いますが、私はこちらの方が合いますね。

――日本のように上下関係によってコミュニケーションの仕方が変わる文化には、何か弊害があると思いますか?

 困っている人の声が掬われづらいのではないかと思います。もちろん実際どうかはわからないですよ。でも、上下関係があることで、権威がある人の発言力は強くなりがちだし、そうでもない人の意見は届きづらくなりますよね。一方、スウェーデンでは発言をする人の立場と意見の内容を区別して考えることが多いので、立場によってなにかを言いづらいということは少ないと感じます。

――逆を言えば、権威を利用したい人にとっては都合が悪いということもありそうですね。

 スウェーデンの良いところは、そうした権威を持つ人ほどオープンな姿勢でいることが多い点なんです。例えば政治家もそうです。オープンで分け隔てなく人の話を聞けるような人でないと、評価もされず、組織をまとめる立場にはつけません。これは私がスウェーデンが素晴らしいと思うことの一つですね。

――なるほど、日本の大半の政治家とは対照的な気がします。

旅行者にも「ちょうどいい」国

――スウェーデンはどんな人におすすめですか?

「海外に行ってみたいけど、ちょっと不安だな」という人におすすめですね。治安も比較的よく、親切な人も多いですし、ほとんどの人が聞き取りやすい英語を話すので、お試しで訪れるにもラーゴム(ちょうどいい)ですよ。

取材:2023年7月
写真提供:写真AC
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです

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聞き手

おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。

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