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#006 会社がつぶれて始まった移住生活【スペイン】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~

お名前:ザキトモさん
ご職業:宿経営
在住地:バルセロナ(2004年~)
出身地:埼玉
ペンション「カサデバルサ」:
https://www.casadebarca.com/

スペインでMBA取得&ライブドア入社、社長が逮捕

――スペイン移住前は何をしてたんですか?

サムスンの日本支社で働いていました。当時はエレクトロニクス部門と商社部門があって、私は商社の方で韓国人上司の元で仕事をしていました。

――スペインに関心を抱いたきっかけは?

上司の影響ですね。韓国と日本の間で仕事をしていると、私は韓国語ができないので、2カ国語ペラペラの上司にいつも連絡が入るんです。それを見ているうちに「他の言葉ができる人間になりたい」と思うようになりました。英語や中国語を話せる日本人は多い一方、スペイン語を話せる人はあまりいないと感じたので、スペイン語を学んでスペインでMBAを取ろうと思ったんです。それでマドリッドの大学院に進むことにしました。

――MBAということは、そのまま現地で働くことも考えていたんですか?

1年間マドリッドで勉強して、そのままスペインで働けるなら働きたいと思っていました。そんなときに、たまたまライブドアのバルセロナ支社で欠員がでたので、2004年に入社することができたんです。

――ライブドア、バルセロナに支社があったんですね!

そうなんです。ただ、採用された翌月に当時社長だった堀江さんが捕まっちゃったんですよ(笑)。それで、「スペインうまくいってないでしょ」ってことで畳むことになっちゃって、結果的に入社して半年間、清算作業をしてました。

サグラダファミリアとザキトモさん

バルセロナで漫画喫茶を開業するも失敗

――そのまま滞在を続けた理由は?

日本に戻る選択肢もあるんですけど、戻るとビザが失効しちゃう。だから、できればもうちょいスペインにいたいなと思ったんです。それで友達のスペイン人と漫画喫茶を開業しました。

――仕事を探すのではなく、起業したのはなぜですか? ハードル高そう。

消去法ですね(笑)。こっちで一番働きやすいのって日系の会社なんですけど、スペイン支社って少ないんです。だから求人が全然なかった。一方、スペインの会社で働こうとするとネイティブのスペイン人と争わなきゃいけないので難しい。そうなるともう、消去法で起業が一番可能性が高かったんです。当時から日本の漫画は人気があったので、漫画喫茶を始めることにしたんです。ただ、それがうまくいかなかった。

――需要高そうですけどね…うまくいかなかった理由は?

みんな無料で読んじゃうんですよ。日本の漫画は人気も知名度もあるんですけど、みんな違法なサーバーにアップされているのを読んじゃう。日本だと出版社とかが厳しいからそういうのを停止できるけど、海外までは手が回ってないんですよね。無料で見れちゃうからビジネスにならなくて…結局1年半くらいで締めちゃいましたね。

――そのタイミングで日本に帰ろうとは思わなかったんですか?

一度日本に帰っちゃうと腰が重くなってスペインに戻らないだろうと思ってたんですよね。だからいられるうちはいようと。そしたら、漫画喫茶がだめになったタイミングで、日本語ペラペラの中国人に「日本料理屋を一緒にはじめませんか?」って誘いを受けて、次は飲食店を開業したんです。それがうまくいって、生活できるようになりました。

ザキトモさんが経営していた日本食レストラン「サシミ」

ライフスタイルの充実を求めて宿経営

――飲食店をやめて、宿をはじめた経緯を教えてください。

忙しかったんですよね。日本食は人気なのでうまくいってたんですけど、昼間も夜も週末も働いて、全然休めないんです。スペインってのんびりしたイメージじゃないですか。昼間からお酒を飲んで酔っ払ったり、シエスタしたり。それなのにわたしは日本にいるときより働いてるじゃないかって。これが10年20年続くのはちょっと違うなって思って、他のビジネスを検討することにしたんです。

――そんな中で宿を始めた理由はなんだったんですか?

バルセロナで日本人向けに宿をされている人がいて、そこが結構埋まってたんです。宿って初期投資は結構かかるけど、飲食店みたいに材料費も必要ないし、場所があればできるので、なんとかできるんじゃないかなって思って始めたんです。それが11年前ですかね。

――宿をはじめて、ライフスタイルは変わりました?

時間をのんびり使えるようになりましたね。家族経営というのもあってミニマムに仕事ができる仕組みになったんです。飲食店とは違い、事前にお客さんがくることもわかるのでその準備をすればいいんです。もちろん忙しい時期もありますが、連泊のお客さんの場合はチェックインなども必要ないので、昼間から遊びにいくこともできるようになりました。飲食店をする前は毎週日曜にサッカーをしていたんですが、それも再開できたりと時間をうまく趣味に使えるようになりましたね。

――いいですね。今経営されている宿について教えてください。

バルセロナの中心のカタルーニャ広場から徒歩7分くらいのところにある宿です。部屋は10部屋あって、コロナ前は7割くらいが日本人のお客さんでした。20代後半から30代の女性の一人旅で利用する方が結構多かったですね。ただ、コロナになってからは日本人観光客が減ったので、いまは他の国のお客さんの方が多いですかね。

ペンション「カサデバルサ」の内部
愛犬と奥さん、ペンションのスタッフと一緒に

無賃で居座り続ける「オクパ」

――仕事をする中で文化の違いはありますか?

一番驚いたのは、スペインの社会問題にもなってるんですけど、宿代を払わないで住み続ける「オクパ」っていう人たちの存在ですね。この人たちは警察を呼んでも追い出せないんです。

――え? なぜですか?

スペインって生存権が強いので、私がそういう人を宿から追い出しちゃうと、生存権を奪うことになって逆に訴えられる可能性すらある。半分おもしろ話ですけど、たとえば夏休みに旅行に行くじゃないですか。その間に誰かがその家に住み着いたら、自分の家でもその人たちを追い出すことができないんです。実際にうちでも、過去に1カ月くらい宿代を払わないで住み続けた人がいました。警察に電話しても「その人達には生存権があるから、裁判するしかない」って言われたんです。そういうことを全部わかった上でやる人たちがいるんです。それが「オクパ」。

――法のグレーゾーンですね…それ最終的にどうされたんですか?

私は一応裁判をして勝ちました。ただ、裁判って時間もお金もかかりますよね。彼らはその間もずっと住んでるんです。しかもその人達は住所もお金もないので、民事で訴えてもお金を回収することもできないんです。なかなかすごい話ですよね。

お昼はお店が開いてない!?

――生活の中で文化の違いを感じることはありますか?

お昼の12時にレストランに行っても全然開いてないって事ですね。だいたい開くのが13時くらいかな。スペイン人は14時くらいからお昼ご飯を食べ始めるんです。夜もレストランが20時くらいからオープンし始めて、21時くらいから混むイメージ。日本と比べると全部2時間くらい遅いんです。

――それってなんでですか?

仕事が始まる時間は日本とあまり変わらないんですけど、スペインの場合は11時くらいに30分くらいのコーヒーブレイクの時間があって、コーヒー飲みに行くんですよ。その時にボカディージョっていうサンドウィッチみたいなのを軽く食べるんです。そうすると、お昼にお腹が空かなくなっちゃうから、14時くらいにお昼ご飯を食べるんです。スペインってもともと暑いところだったので、午後はあまり仕事できなかったんですよね。だから午前中にできるだけ仕事して、14時以降はシエスタで休んでのんびり過ごす。その文化の名残なんじゃないかなと思います。

――それじゃ、飲食店以外もお昼けっこう閉まってそうですね。

銀行員もその時間にシエスタに行っちゃうから、窓口に一人しかいないこともよくあります。みんなも同じ時間帯に銀行に行ったりするから、すごい混むんですけど、全然人員増やす気配もなくて、銀行員はのんびり帰ってきますよ(笑)

日本の読者に向けて

――今後の展望について教えてください。

宿は引き続きやっていきたいと思っています。同時に、これまでの経験を活かして、これからスペインに進出してくる日本人のお手伝いをしていきたいですね。

――海外で挑戦したい方や、関心がある人にアドバイスがあれば教えてください。

現地に住んでる人にぜひ色々聞いてほしいと思います。当時はわたしもブログとかをみつけて現地に住んでる人にコンタクトをとって情報を集めていました。やっぱり経験者しかわからないことも多いですし、事前に情報をきけば色んな意味でも近道になります。わたしも声をかけられたら丁寧に対応したいタイプですし、スペインに興味を持つ人がどんどん増えてほしいと思っているので、ぜひ連絡してほしいですね。

取材:2023年2月
写真提供:ザキトモさん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです

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聞き手

おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。

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