#010 「世界一幸せな国」の実態【デンマーク】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~
お名前:岡安夏来さん
ご職業:Webマーケター
在住地:コペンハーゲン
出身地:東京
Instagram:https://www.instagram.com/okayasunatsuki/
Youtube : https://www.youtube.com/channel/UCbkcpdGklgyj-WNxZm3jMyg
「世界一幸せな国」への関心
――デンマークとの出合いを教えてください
大学生のときに留学生が住む寮に入っていて、そこでデンマーク人と出会ったんです。そこからデンマークという国が気になるようになりました。卒業旅行でもデンマークに行って、「なんかいい国だな」って興味を持つようになったんです。ただ、当時はアパレル業界で働くことが夢だったので、卒業後はアパレルメーカーで営業として働きはじめました。
――そこからどうして「住みたい」と思うようになったのでしょうか?
「幸せな国デンマーク」の本当の意味が知りたくなったんです。
この国に興味を持って色々調べていくうちに、世界幸福度ランキングで必ずTOP3以内に入り続けていることを知りました。さらに、スイスのビジネススクール・国際経営開発研究所(IMD)が世界64カ国を対象にした「世界競争力ランキング」でも、上位に位置しています(2022~2023年1位)。そのうえで、社会人でも約1ヶ月も夏休みを取れる。
一方、当時の私の職場は、環境的に恵まれていたものの、結構忙しかったんです。同僚がストレスで会社に来れなくなることもありました。
そこで、「デンマークと日本のギャップはなんなんだろう」「あまりにも理想的なデンマークの実態はどうなんだろう」って気になったんです。デンマーク人の友達には「そんなに幸せじゃないよ」って言われたこともあったので、これはやっぱり住んでみないとわからないなって。そこで「日本で3年間働いたらデンマークへ行ってみよう」と決めたんです。
人生のための学校「フォルケホイスコーレ」
――どうやって移住したんですか?
デンマークと日本の働き方の違いを知りたかったので、働きながら暮らしたいと思いました。ただ、当時は語学力もなかったので、まずは留学しようと考えました。「フォルケホイスコーレ」という、「人生のための学校」とも言われる、デンマーク独自の学校に通いました。
――どんな学校なんですか?
全寮制で、17歳以上であれば誰でも入学できて、入学試験もなければ、成績や卒業試験もない、デンマークを象徴するような教育機関です。全国に70校くらいあるんですけど、スポーツやアート、健康や政治などいろんなジャンルの学校があって、日本で言う専門学校みたいなイメージですね。しかも、政府が学費の2/3を負担しているので、学費と宿代と食費で大体月に12~15万円くらいで通えるんです。
――面白いですね。印象に残ったことを教えてください。
とにかく対話を重視することですね。一つのテーマに対して意見を言い合う。たとえば、環境問題を考えてベジタリアンになるべきか、これからの世の中はどうなっていくと思うかなど、答えのない問いに対してみんなで意見を言い合うんです。とにかくいろんな人と話して、いろんな意見を聞くことが多かったです。紙とか机とかもほとんど使わず、椅子だけで授業するのも面白かったです。
日本の謝罪文化へのモヤモヤ
――フォルケホイスコーレ卒業後、そのまま今の会社に?
卒業後の3年間くらいは、デンマークのスタートアップ企業で働いていました。私が日本で務めていたアパレル企業は大きい会社だったので、会社内での経験は積めても、デンマークの企業でも通用するようなスキルは私にはありませんでした。なので、なんでもいいから就職先を決めようと、フォルケに通っているときに片っ端から応募をしていたんです。そのときに縁があったのがその会社でした。スタートアップだったので、幅広い業務に関わることができました。
――仕事をする中で感じた文化の違いはありますか?
いい意味で「100%完璧じゃなくてもいい」ところは居心地がいいですね。「間違えることはそんなに問題にならない」「結果を出す過程で間違えたら直せばいい」という考え方があるので、行動しやすいです。日本だとミスが許されない雰囲気があるというか、結果に繋がるか分からない資料作成などにも100%を求められる感覚がありました。
あと、日本にいるときは、なにか間違えるとすぐ謝罪をしますよね。デンマークでももちろん謝ることはあるんですが、すぐ次に向かうというか、解決に向けて動きはじめます。日本だと謝罪文をつくったり、場合によっては「謝るのが仕事」って言う上司がいたりして、なんでそんなに謝るという形式を重要視するんだろうってモヤモヤしていたんです。そういった意味でも、間違えることに対するデンマークのポジティブな姿勢は、居心地の良さを感じます。
冬はビタミンDで精神を保つ
――移住して感じたカルチャーショックを教えてください。
天候が違いすぎて体調管理が難しいです。デンマークにも四季はあるんですが、私からすると短い夏と長い冬って感覚。緯度が高いので、9月くらいから寒くなって、10月末になると夕方4時には真っ暗になるんです。逆に夏は、夜中の0時とかまで太陽が出ていて、朝の4時から明るくなるみたいな状態なので、太陽がもったいなくて夜更かししちゃったりします(笑)
――冬は大変ですね…
そうですね。ずっと暗いので、みんな元気もなくなるんです。実際に10月くらいから予定のドタキャンも増えてきて、そういうときは「ビタミンDの錠剤のんで頑張ろう」って冗談を言い合ったりします(笑)。もちろん晴れた日は、太陽という名のビタミンDを求めて日光浴。みんな外で遊びます。そういう日はお昼ご飯の時間も外に出て、太陽を浴びながらランチしますね。
逆に、夏は日焼けしてない人を見ると、「日焼けする時間すら取れなくて余裕ないのかな」って思われたりする。日焼けをしてた方が、「時間と心に余裕がある人なんだな」って印象になります。
離婚はネガティブなことではない
――ほかに驚いたことはありますか?
悪い意味ではなく、離婚率が高いことに驚きました。近年減少傾向ではありますが、2020年のデンマークでは約2組に1組が離婚しているというデータがありました。
日本にいるときは、離婚すると「バツイチ」などの表現によって無意識にネガティブな印象を感じることの方が多かったんですが、デンマークでは「両親はまだ結婚してるか」「義理の兄弟がいるか」っていう話から始まることも普通です。それぞれの生き方があっていい、“個”として人生を生きるというのが前提にあるので、離婚は本人がより良く生きるための選択でしかないんです。
最近だと、お互いが同意してればオンラインで離婚もできるみたいです。移住して間もないときは、そうした自由で平等な文化は素敵だなと思ってたんですけど、個人が一番という価値観は、良くも悪くも寂しさも感じるなと思いました。
――なつきさんは日本とデンマークどちらが合っていますか?
今のところは、デンマークの方がいいかもしれないですね。個人主義には寂しさを感じることもありますが、やっぱり選択肢が自由にあって、世の中の暗黙のルールに縛られすぎないという点はいいことかもしれません。
日本だと、子どもの教育費に縛られたり、親の老後の介護なども「家族だから面倒をみるべき」的なルールがありますよね。家族の繋がりは大切であるという美徳がある一方で、それに縛られて苦しんでいる人もいる。本来その繋がりは素晴らしいものだったはずが、気づいたらネガティブな状態になることもあります。
デンマークでは、教育費に縛られることもなければ、老人ホームも本人の意思で入ることが多いです。最終的には“個”であるという考え方は、孤独という寂しさも含めて自由で、自分に合っている気がします。
日本の読者に向けて
――今後について教えてください
長いスパンでの目標は、60歳とかになってもデンマークで生活していたいなと思います。こちらには「デンマークで日本人といえばこの人!」という方がいらっしゃって、デンマークの文化を日本に繋げてくれている。私もそんな存在になれたらいいなと思っています。私は言語も含めて、知らないことがたくさんあるので、長期で住み続けて現地の人になっていきたい。その過程で得た知見を日本にも伝えていきたいですね。
――デンマークから何か伝えたいことはありますか?
私はみんなが海外に行った方がいいとは必ずしも思っていないんです。デンマークは幸せの国と言われていますが、住めば誰でも必ず幸せになるというわけでもない。ずっと住んでいるといいことだけでもないですからね。ただ、なにかに迷っていたり、人生を変えるキッカケが欲しいという人にとっては、変わる可能性はたくさんあります。そういう方はぜひデンマークに来てみてほしいですし、この記事もそうしたキッカケになるといいなと思います。
取材:2023年2月
写真提供:岡安夏来さん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです
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聞き手
おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。