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「交渉するときは感謝の気持ちを」

12月7日発売の木﨑賢治著『プロデュースの基本』、今回は第3章より抜粋です。この章は、仕事をするうえで大切な、仕事相手とのコミュニケーション方法などがテーマ。クリエイティブな人とはどのような人か、次の仕事に繫がる断り方とは?──などなど、ヒントが並びます。

[2 おもしろい歌詞を書く人は、独自の視点を持っている]

 ものを見る視点というものは、ある程度若いときの生き方で決まってくるんじゃないかなと思っています。歌詞を見て「そういうところを歌にするのか」と驚かされることがありますが、その気づき、目のつけどころというのは、その人が生きてきたなかでつちかった感性によるものだから、他人が真似しようとがんばってもなかなかできないことです。日常をどのように過ごし、そこから何を感じてきたかが、感性の基本になります。

10年本を読み続けて
 曲に関しては、ある程度一緒にやっていくとどんどんよくなっていくんです。作曲には技術的な要素が多いからです。
 だけど、言葉で表現することはそうじゃない。ものを見る視点を育てるのはその人自身でしかないし、それには時間がかかるんです。
 たとえばですが、どれだけ映画を観てきたか、どれだけ本や漫画を読んできたか、そこで何を感じてきたか、そんな積み重ねが必要なんだと思います。
 渡辺音楽出版(音楽出版社とは、音楽作品の著作権を管理し、音楽作品から得た著作権使用料を著作者に契約に応じて分配し、音楽の制作やプロモーションも行う会社)に入って制作の仕事を始めたとき、先輩に「木﨑も詩がわかるといいんだけど」と言われました。そのとき、ちょっと悔しかったんですね。僕はそれからの10年、ずっと本を読み続けて、映画を観続けて、それでやっと言葉のことや歌詞のことが少しわかるようになったんです。だからこそ、言葉の感覚は急に身につくものではないと思っています。
 吸収できるものなら何でもいい。映画でも漫画でもアニメでも小説でも何でもいいんですけど、いろんなことに心が動かされるようにならないと、いい歌詞は書けないんじゃないかなと思います。

伝えたい気持ちの強さが大事
 ただ、僕が言いたいのは、喋りや文章のテクニックがある人が必ずしもいい歌詞を書けるわけではないということです。自分の気持ちを伝えたいと強く思う人が、いつかうまく表現できるようになるんだろうなと思っています。
 僕も窮地に陥ると、なぜかうまく言葉が浮かんできて、アーティストを説得できてしまうことがありますから。あれは何なんだろう。やっぱり、強く思うこと、願うことがまず大事なのかもしれませんね。

[5 クリエイティブな人はどんな相手も平等に扱う]

 人間はクリエイティブな人と、ポリティカルな人に分かれますね。ちょっと話したらわかってきます。

威張らない人
 クリエイティブな人は、人を上下関係で区別しない。だから、上の人に必要以上の気を遣って敬語ばかりで話したりしないし、下の人に威張ることもありません。その人がクリエイティブかどうかは、そういったところを見ているとわかります。
 逆に、そういうクリエイティブな人を使って仕事をする人たちのなかによくいるんですが、名のある人には媚びた態度をとって、あまり実績のない人には威張ってしまう人がいます。政治家っぽいなと僕は思います。
 そういう人は、きっとどの業界にもいるでしょうね。

過去の実績より、今と、この先への興味
 ある結婚式に参列したとき、まさにそんなタイプの人がいました。服装もちゃんとしていて、しゃべり方もその中身も理路整然としているんだけど、聞いていてつまらない。心からおめでとうと言っているように聞こえないんですよね。
 そして、その次にマイクの前に立った人はノーネクタイで、祝辞もつっかえたりするんだけど、なんだか温かいんです。人は言葉以前に声のトーンを聴いていて、この人は心の真ん中から言っているとか、お世辞で言っているとかわかってしまうものなのかもしれません。
 あとから聞いたら、やっぱり後者はクリエイティブな仕事をしている人でした。最初の人は、話のなかに自分の実績、どんな仕事をやってきたか云々というようなことをさりげなく盛り込んでいたんですね。そういう人は、だいたいクリエイティブな人ではありません。過去に何をしたかより、今、あるいはこの先に何をするかに興味がある人がクリエイティブな人です。

[6 正論で人は動かない]

 人と人のコミュニケーションで必要なのは、まず受け入れることです。言い返したり、突き放したりすることが必要な場合でも、受け入れてから返すぐらいの余裕がないといけません。

ときには遠回りもして根気強く
 曲や歌詞を直してもらいたいなと思ったとき、変えて欲しいところだけを最初に指摘すると、相手もすべてを否定されているような気分になるのか、受け入れてくれないことが多いです。相手の気持ちや状況も考えて、言わないでおいたほうがいい場合もあります。
 僕からいきなり「あの詩、ダメだよね」と言えば、喧嘩になってしまうことだってあります。一方で、わざと怒らせることもあるにはあるけど、でもそれは、明日になればわかってくれるだろうなという確信のようなものがあるときにかぎります。
 喧嘩をしたいわけではなくて、よりよくしたいだけなんです。会話のなかでうまく本題に持っていけるようにするのがいちばんなんですけど。
 たとえば、話の流れで相手のほうから「このあいだの曲どうでしたか? サビの詩がちょっとどうなのかなあと、ちょっとわかんなくなっちゃって」なんて切り出してくれたら、「実は僕もちょっと相談したいと思ってたんだよね」と返せます。そこから問題の核心に触れることができます。
 あえて本題から外れた話をしてみるというのもときには有効です。こちらが気になっている歌詞のことは、本人もたいてい気にしているから、そこで僕が「曲、いい感じだったよね」と言うと、相手は「歌詞はどうだったの? ちょっとわかりづらいかなあ?」と少し自信のない雰囲気を出してくれることもあります。そのへんは根気強くやることで、コミュニケーションはスムーズにいきますね。

自尊心を傷つけない
 正しいことを言っているときほど、相手のプライドを傷つけてしまうことがあります。そうなると意固地になってしまい、にっちもさっちも行かなくなることがある。前にも書きましたが、正しいことを言うことが、人を動かせるとはかぎらないんですね。
 あるアーティストの場合は、バンドのメンバーがいる前で詩について僕が意見を言ったら、その場では意固地になってしまってぜんぜん先に進まなかったんです。でも後日、その彼だけを呼び出して同じ話をしたら、今度は素直に聞いてくれて、作業もスムーズに進みました。つまり、自分の歌詞にいろいろ言われて、直されているところを、他のメンバーに見られたくなかったんですね。
 もちろん、すべてのアーティストがそうではなく、人前で意見されることが平気な人もいます。何によってプライドが傷つくかは本当に人それぞれなので、プロデューサーとしてはそこの見極めが難しいところです。

交渉するときは感謝の気持ちを
 歌詞や曲を書いてもらったとき、あるいはアレンジをしてもらったとき、全体的にはいいと感じても、多少の違和感を覚えることがあります。
 そんなとき、僕はまずその違和感の正体を突き止めようとします。何が引っかかるのか、どこが物足りないのかを探し出さなければなりません。そして次に、作品をよくするためにはどうすればいいのか、その答えを考えます。クリエイターさんに手直しのお願いをするのは、そのあとの話です。
 僕は昔、〝先生〞と呼ばれる先輩の作家に修正のお願いをしなければならないことがありました。でも「直してください」とは言えません。どの人にもそう言ったことはないんです。相手の気持ちがわかるからです。
「このあいだつくっていただいた曲のことでご相談があるんですが」と言うのが精一杯です。相手もピンときていると思います。
 そして、よかった箇所を伝えるところから始めます。「このフレーズはすごくいいですね」と言ってから、「もっとひらけた感じにするには、どうしたらいいんでしょうか」などと聞きます。
 事前にいろいろ考えて、もっとこうすればいいんじゃないかなという具体的なイメージは持っているんですけど、このタイミングでは言いません。答えを先に言うとイヤがる人もいるからです。なかには「どうしたらいいの?」と逆に聞いてくる人もいますが、そのときは「こういう感じはどうですか?」と提案します。
「こういうメロディにしてください」とはっきり言いたいのを抑えて、もっと抽象的に「こういう感じでわーっと広がる感じですかね」とか「たたみ掛けるような感じがいいんじゃないですかね?」みたいに伝えます。
 そして、いいメロディが出てきたら「それいいですね!」とすかさず言うことが大切です。
 曲を直してもらうやり取りは、本当にナイーブな作業なんです。遠回りのようでも、やはりみんなに気持ちよく仕事してもらって納得してもらえるのが大切ですから、手を抜けないですよね。
 何より、感謝の気持ちを持つことが大事だと思います。
 僕が〝相談〞に行くときに心がけていたのは、とにかく感謝の気持ちを持つこと。自分が寝ていたり遊んでいたりしたときに、この人は一生懸命にこの曲や歌詞を考えてくれていたんだろうなと想像するんです。
 本人に話をするときに、わざわざ感謝の言葉を口に出したりはしないんですが、そういう気持ちがあれば、相手が不快になるような話し方にはならない気がするんですよね。言い方が少しソフトになるのかもしれないし、それで相手にもきっと伝わるだろうな、と。もしかしたら声のトーンに気持ちが出るのかもしれません。

言葉のトーンと心の関係
 僕自身、人がしゃべることを聞いていて、もちろん内容も聞いているけれど、それ以上にもっとその人の言葉のトーンを聞いているんだと思います。同じようなことをしゃべっていても、心がこもっている人と、口先だけで言っている人ではトーンがぜんぜん違う。アーティストがステージで「ありがとうございます」と言っても、それが心からの感謝かどうかは、案外人にわかってしまうんです。
 だから、言葉の意味よりも、そこに込められた気持ちのほうが大事。言葉の質感というか、言霊みたいなものが、話すことの7割ぐらいを決めるんじゃないかと思っています。

次に繫がる断り方
 以前、とあるレコード会社にアーティストのプロデュースを依頼されました。
 音源を聴いてみて、自分が興味がある感じの音ではなかったんですが、僕ははっきりノーと言えず、困ってしまいました。
 そこで、レコード会社の人と音楽談義を始めたんです。今流行っている音楽のこと、これからどんな音楽をつくっていきたいかなど、具体的なアーティスト名もあげて夢中になって話しました。
 それを聞いて、だんだん相手も感づいたんでしょうね、「このアーティスト、ちょっと違いますね?」って言ってくれたんです。僕はすかさず、きまり悪い感じではありましたが「はい、そうですね」と答えました。
 すると帰り際に、「よかったら、これを聴いてみてください」と新人アーティストの曲が入った1本のデモカセットテープを手渡されました。「これなら、木﨑さんが気に入ってくれるんじゃないかなあ」と。
 聴いたら、すごくよかった。声質も、歌い方も好きだなと思いましたね。それが木下理樹くんのデモテープでした。ほどなくして彼がつくったバンド ART-SCHOOL と一緒に仕事をすることになったんです。
 断ることは難しいですけど、断り方が大切ですね。そのとき、時間がないからなどと言い訳をするだけでは、お互いに気まずい思いが残るだけです。それよりも、今自分が興味のあることをはっきり相手に伝えて、それをわかってもらうことが、次に繫がる断り方だと思います。

Spotifyプレイリスト
木﨑賢治『プロデュースの基本』

木﨑賢治(きさき・けんじ)
音楽プロデューサー。1946年、東京都生まれ。東京外国語大学フランス語学科卒業。渡辺音楽出版(株)で、アグネス・チャン、沢田研二、山下久美子、大澤誉志幸、吉川晃司などの制作を手がけ、独立。その後、槇原敬之、トライセラトップス、BUMP OF CHICKENなどのプロデュースをし、数多くのヒット曲を生み出す。(株)ブリッジ代表取締役。銀色夏生との共著に『ものを作るということ』(角川文庫)がある。

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