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#004 アドリア海に一目惚れして移住【クロアチア】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~

お名前:YUKIKOさん
ご職業:政府公認観光ガイド
在住地:フヴァル島
出身地:岩手県
Instagram:
https://www.instagram.com/croatia_yukiko/
クロアチアツアーのご案内:https://linqgroup.jp/linqro/tourcoordinator/

貯金が消えて世界一周断念、偶然出合ったクロアチア

――クロアチアとの出会いを教えてください。
 
教員を目指してた大学生の時、クロアチアの難民キャンプにいったことがキッカケでした。その頃から「いつかクロアチアに住みたいな」と思いながら、岩手県で5年半ほど中学校の教員をしていたんです。

――難民キャンプへ行かれた経緯を教えてください。
 
初めは世界一周に行きたかったんです。教員になる前に世界中を巡って、その経験を子どもたちに伝えられたらいいなって。100万円貯めたら世界一周しようと思って、朝は新聞配達、夜中は飲み屋の店員。朝から夜中の2時までずっと働く生活を6カ月続けてました。ただ、あと少しってところで肝臓を壊して入院したんです(笑)。入院費とか色々かかって、手元に残ったのが20万円。体も壊したし、お金もなくなった。これじゃ世界一周できないなって。
 
――きついですね……それでどうして難民キャンプに?
 
海外に行くことは諦められなかったんです。それで国際ボランティア特集みたいな本を入院中に読んでたんです。そしたら、たまたま旧ユーゴスラビアの募集を見つけて、「これだったら20万円でもいける!」と。
 
――不思議な縁ですね。本に書かれていたのが他の国だったら今クロアチアにいないかもしれないですよね?
 
そうなんです。派遣先はボスニア・ヘルツェゴビナの予定だったんですけど、直前にクロアチアのスタッフに欠員ができたので変更になった。だから本当に偶然なんです。そんな感じで行ったクロアチアに一目惚れしてしまって、難民キャンプには何年も通って、教員になってからも夏休みを利用して行くほどになったんです。

「やりたいことができなくなった」教員時代

――「いつか住みたい」と思った、クロアチアの魅力は何ですか?
 
一番はアドリア海です。美しさに本当にびっくりしました。表現し難いんですけど、とにかくこんな海があるんだ! っていうのが第一印象でした。あとは人の気質ですかね。大雑把というか楽観的というか、義理人情に熱かったり。なんとなく自分の性格と合うような感覚があったんです。

YUKIKOさんを魅了したアドリア海

――5年半働いていた教員をやめて、移住に踏み切った理由は何ですか?
 
教員の仕事でやりたいことができなくなったこと、あとはクロアチアで宿をやりたいという想いが芽生えたことですね。毎年のようにクロアチアに通っていた私は、学校の「総合」の学習時間を使ってその体験を共有していたんです。当時の教員としての私の武器みたいなものですよね。ただ、担任として自分のクラスを持つようになってからは海外に行くことが難しくなってしまったんです。教員という仕事は好きだけど、海外に行けずにその環境に縛られてしまうのは嫌だなと思ったんです。
 
――宿はどうしてやりたいと思うようになったんですか?
 
いろんな国の人がそれぞれの文化を尊重しながら交わる場所をつくりたいと思ったんです。そのきっかけになったのが、10年間ヒッチハイクをしていた夫婦がやっている「苫屋」という宿。岩手県にある宿なんですが、そこにはいろんな国の人や旅好きの人が集まっていて、よく通っていたんです。わたしにとっては教員の世界から抜け出せる楽しい居場所だったんですよね。苫屋に通っているうちに「いつかクロアチアでこういう宿をつくりたい」と思うようになったんです。
 
――移住の決め手になったタイミングはいつですか?
 
異動のタイミングですね。お金も貯めていたので「今だな」と思って、移住することにしました。

観光客が集うフヴァル島

――今している仕事と、その経緯を教えてください。
 
現在は、クロアチアのフヴァル島で宿を運営しつつ、クロアチア政府公認観光ガイドとして働いています。移住当初はまず、スプリット(クロアチア第二の都市)でホステルをやりながら、日本語教員、医療通訳などいろんな仕事をして、そのうちの一つが旅行者のサポートをする添乗員(ツアーコンダクター)。仕事で観光の勉強をするうち「政府公認観光ガイドになりたい」って思うようになったんです。資格を取るための学校に6カ月間通って試験を受け、無事に政府公認観光ガイドになりました。
 
――フヴァル島ってどんなところなんですか?
 
クロアチアは1,500以上の島があるんですけど、そのなかでもセレブ達もこぞって訪れるような観光地ですね。文化遺産と自然遺産、そしてアドリア海と無人島が連なる美しい景色が有名で、リゾート地としてのポテンシャルがぎゅっと詰まっている場所なんです。ただ、フヴァル島の本当の魅力は農業分野。ワインやオリーブオイルの質がとても高いのでローカルのアイランドライフを体験するような観光も広がってきました。
 
――あえてフヴァル島の一番の魅力をあげるならどこですか?
 
やっぱりアドリア海の透明度ですね。もう毎日飽きないですよ。水平線にひろがる美しい海を見ながらドライブするのは最高です。どこにいっても凄いんですけど、特に島の南側の海はほんとうに綺麗ですね。他の海とは全然違うので、ぜひ一度見てほしいです。

フヴァル島の海と街並み

時間に価値を見出していない

――移住して感じた文化の違いは?
 
日本では「時間は財産」とか「人の時間を奪わないように」とかって言うじゃないですか。でもこっちの人は時間というものに価値を全然もってない。「いま楽しい」ことが優先なんです。だから先延ばしできるものはすべて明日以降、そして明日は永遠にこないんです。それは仕事でもそうで、1時間かけて行ったのに、アポを10分前にドタキャンされるとか普通にあります。あと、以前ボイラーが壊れて業者に電話した時も「明日いくね」って言うんだけど来ない。また電話しても「明日行くね」、もちろん来ない。だから本当に物事を進めたい場合は、頼み込みに行くしかないんです。
 
――どうやって頼み込むんですか(笑)
 
泣き落としです。泣く、すがる、お願いする。「法律やルールだから」とか言ってもこっちの人は動いてくれません。だけど、困っている人を助けたいという想いを持っている人は多いので、プライドなんて考えずに「あなたがいないと生きていけないの」ってくらい懇願するしかないんです。もはやこれは仕事を動かすスキルの一つになりました(笑)。

YUKIKOさん

物々交換が成り立つ「結いの精神」

――ほかに文化の違いを感じることはありますか?
 
奢り文化がありますね。島の人たちは結いの精神、物々交換も成り立つコミュニティーの感覚の中で生きているので、お金もみんなのものっていう感覚があるんです。だから、みんな奢ったり奢られたりがすごく多い。
 
――どんなシーンで多いんですか?
 
やっぱりコーヒーが多いですかね。男性の場合はお酒とか。
 
――誰が「奢る」側になるんですか?
 
一緒に行こうよって言った人が払う。誘った人が払うんです。だからお金がない人は誘ってこない(笑)。だけど、基本的に困ってる人を助ける文化なので、島だとそういう人たちを誘ってご飯とか行くんですよね。
 
――YUKIKOさんが一番「助けられた」経験はなんですか?
 
ちょっと大きい話になっちゃうけど、東日本大震災の時ですね。震災当時、私も岩手出身なので、「お金を送らなきゃ」と思って銀行に行ったんです。そしたら、島の銀行に杖をついたおじいちゃんや、腰の曲がったおばあちゃんたちが、自分のお金を握りしめて寄付しに来てたんです。日本人の私をみて「大丈夫か? 日本は戦争の時に僕たちを助けてくれた、だからお返ししなきゃいけないんだよ」って言ってくれて、すごい人たちだなって、涙を流すほど感動しました。困っている人を自然に助けるということが普通に起きるのがこちらの生活なんです。

フヴァル島の街並み

読者に向けて

――クロアチアから日本に伝えたいことはありますか?
 
皆さんの中の「死ぬ前に一度は行きたい国」にいれてほしいですね(笑)。クロアチア、特にフヴァル島は美しい景色や文化もそうですが、観光立国なのに人々が擦れていないのが魅力なんです。そこにハマって何度もクロアチアを訪れる旅行者も多くいるので、「海外旅行どこにしようかな」と迷ってる人がいたら、ちょっと来てみては? と思います。
 
――とくにどんな人におすすめですか?
 
人との触れ合いや、自然が好きな人。そして島の昔から伝わる生活を感じて見たい人におすすめです。
 
――最後に、今後について教えてください。
 
日本とクロアチアの間で、若者たちが活躍できる土壌を作りたいですね。日本に興味があるクロアチア人や、クロアチアに興味がある日本人が繋がっていく機会や、仕事のチャンスが生まれていくようにしたい。クロアチアで仕事をしている日本人も年齢を重ねてきたので、これからは若い人にチャンスがいく流れをつくっていきたいと思っています。

取材:2023年2月
写真提供:YUKIKOさん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです

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聞き手

おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。

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