#021 「自由」を求めて、パリで活躍するタトゥーアーティスト【フランス】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~
お名前:Yoshika Akazakiさん
ご職業:タトゥーアーティスト
在住地:パリ(1993年~)
出身地:香川
Instagram:https://www.instagram.com/yoshikar/
Yoshikaさん運営のタトゥーショップ:https://www.yoso.paris/
日本に根付く「刺青=反社会的」のイメージ
――タトゥーアーティストになろうと思ったきっかけは?
タトゥーとの出合いは14歳くらいの時でした。音楽のライブで和彫の入った人をみかけて、ふと「すごく綺麗だな」って思ったんです。その頃から漠然と「タトゥーアーティストになりたい」という気持ちが芽生えていました。
ただ、その後に調べていくと、当時の日本の和彫の世界は朝5時起床で、師匠の下で厳しい修業を積んでいくような世界だと知りました。そのハードルの高さに少し抵抗感を覚えてしまい、数年は具体的な行動がとれませんでした。でも、18歳の時にアメリカンタトゥーを日本に広めていた彫り師の方と出会ったんです。彼が基礎的なタトゥーの彫り方を教えてくれて、「私でもできるかもしれない」と思わせてくれました。そこでやっとタトゥーアーティストになることを決心したんです。ただ同時に、やるなら日本を出なければいけないとも感じていました。
――なぜ日本ではできないと感じたんですか?
私が惹かれていたのは、綺麗でファッショナブルなタトゥーでした。でも、当時(90年代)の日本におけるタトゥーは、今よりもずっと反社会的なイメージが強かった。日本では自分がやりたいタトゥー表現ができないと思ったんです。
授業をサボってタトゥーショップを練り歩く
――そこから、どうしてパリへ?
友達が「一緒にパリに遊びに行かない?」って誘ってくれたのがきっかけでした。はじめは軽いノリでしたが、色々と調べていくうちに、当時のフランスでは雑誌の表紙にタトゥーが入ったファッションモデルが登場していることに気づいたんです。日本とは違って、タトゥーをファッションとして扱う感覚がフランスにはある気がしました。
実際に視察という感覚で行ってみた結果、フランスは日本よりタトゥーの歴史が浅い分、イメージが固定化されていなかった。つまり、自由って事ですよね。それで「パリいいかも」って思ったんです。
――パリでタトゥーアーティストになるために、まずは何から始めたんですか?
まず、1年間の語学留学に行きました。でも、わたしは学校が苦手なタイプだったので、結局授業をサボってタトゥーショップを練り歩いていましたね。自分から動いてパリのタトゥー文化に触れたり、アーティストに会ったりしていかないと、1年間が無駄になると思ったんです。
日本に帰国してからはアルバイトでお金を貯めて、帰国から半年後にはパリに戻りました。結果的に、語学留学時代に出会った人との縁で仕事に繋がっていきました。
――フランス移住の決め手は何ですか?
ここなら自由に自分を表現できると感じたことです。フランスは日本文化に好意的な人が多く、強い関心を寄せてくれます。タトゥーを彫る私に対しても、それは同様でした。当時の日本では肩身の狭さを感じていたのですが、フランスでは受け入れられて、むしろ好意を持ってもらえる。そんな環境が自分には合ってたんだと思います。
職業としてのタトゥーアーティスト
――Yoshikaさんはどんなタトゥーを彫っているんですか?
私の場合は花や動物などの自然系と、あとはやっぱり和風のものが多いです。最近はとくに花が人気で、インスタに載せた写真を見てくれた人が何人も「私もこんな花を彫ってほしい」と彫りに来てくれます。その度に写真を撮って載せているので、気づいたらインスタが花のタトゥーばかりになってきました(笑)。
――本当にカジュアルにタトゥーを彫るんですね!
彫る方にとっても彫られる方にとっても、タトゥーはファッションとして身近な存在なんです。最近だと、フランスでは美大の卒業生がタトゥーアーティストになることも珍しくありません。日本とはだいぶ違いますよね。タトゥーアーティストが職業として確立されてきていますね。
――Yoshikaさんはタトゥーショップ「YOSO」も運営されていますね。
個人でタトゥーアーティストをやっていると、お客さんとは関わるけど、他のアーティストと出会う機会は少ないですよね。そこで、アーティスト同志の横の繋がりが生まれるような場として、複数人のアーティストが共同で使える「YOSO」を作ったんです。アーティスト同志で情報交換できる場所が欲しかったというのが1番の理由です。今ではタトゥー以外のジャンルのアーティストとのコラボも積極的に進めています。
――タトゥーアーティストはフリーランスが多いんですか?
昔はお店に雇われて朝から晩まで働くのが当たり前でしたが、最近はフリーランスが主流ですね。実際にうちのお店にも「数日間使わせてほしい」って世界中からタトゥーアーティストが集まってきています。
タトゥーとは「その人と一緒になるもの」
――Yoshikaさんにとってタトゥーとはどんな存在なんでしょうか?
生活の一部ですね。はじめは遠い憧れの存在でしたが、上手くなるために必死に技術を磨いて、ある時からそれが仕事になって、気づいたら30年程が経ちました。結果、私にとってタトゥーを彫っている時間は、特別な時間ではなく、むしろ落ち着く時間になっています。今やもう、私からタトゥーをとったら何も残らないんじゃないかと思います(笑)
――その感覚はいつから芽生えたのでしょうか?
「タトゥーは人と交わり、一緒になる」という感覚を持てるようになってからだと思います。初めの頃は、「絵を描く」という感覚が強く、技術や感性を磨くことに意識が向いていました。ただ、経験を積んで余裕が生まれてくると、目の前にいる人とコミュニケーションが増え、その人に合わせたタトゥーを自然と考えられるようになるんです。それぞれの生活や、性格、肌の調子に合わせながら、その人と「一緒になるタトゥー」を探していく。それは「絵を描く」技術ではなく、お客さんとのコミュニケーションによってわかるものです。そうした余裕と感覚が芽生え始めたころから、自分にとっても生活の一部になっていった気がしますね。
はっきり言わざるを得ない対人文化
――パリで働くなかで、日本との文化の違いは感じますか?
フランスでは「お客様は神様」みたいな考え方はないですね。タトゥーショップでも、カフェやパン屋でも、基本的にはお店とお客さんは同等です。私もお客さんに無理なことを頼まれた場合は「それはできない」って断ります。
――生活の中で感じる文化の違いはありますか?
日本でよく感じる「暗黙のルール」みたいなものはありません。例えば、人から頼み事を何回も引き受けていたら、こちらの頼みも聞いてくれるだろうと当たり前に思いますよね。お中元が来たら返さなきゃみたいな。でも、フランスではそういうのもあまりないんですよね(笑)。
――Yoshikaさんはフランス生活が長いわけですが、ご自身もフランス的になっていったりするんですか?
日本人らしい気遣いみたいなものは全部なくなっていきますよ(笑)。こちらでは、相手の気持ちを汲み取ったりすることはあまり美徳にならないんです。恋愛でも友人関係でも、日本なら穏やかで控えめに優しくしていれば相手が察してくれたりするかもしれませんが、フランスでは口に出してはっきり言わないと、相手に伝わらないことの方が多いです。誰も何も察してくれません(笑)。
妄想が現実を変えていく
――当時のYoshikaさんのように、これから海外で挑戦したいという方にアドバイスがあれば教えてください。
妄想力ですね。振り返ってみると、私がここまで頑張れたのは、「こうなりたい」っていうイメージが明確にあったからだと思うんです。「タトゥーアーティストとして世界で活躍している」というイメージもそうですが、そのほかにも色んな種類の妄想がありました。昔は「ジョニーデップがお店に来て、もしかしたら恋が生まれちゃったりして……」とか思ったり(笑)。一見冗談に聞こえるかもしれない妄想も本当に大切で、目標に近づいていく糧になるんです。だからたくさん妄想して、そこに向かって進んでほしいと思いますね。
――今後の活動について教えてください。
日本で活動してみたいなって気持ちがあります。私がパリに来るきっかけになった日本の固定的なタトゥーのイメージ、それをそろそろ変えることができるんじゃないかって思えてきました。私がパリで学んだファッションとしてのタトゥーを、日本で試してみようかなと。まずは少しずつ日本で活動して、「こんなタトゥーもあるんだ」って知ってもらうところから始めていきたいなと思ってます。
取材:2023年5月
写真提供:Yoshika Akazakiさん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです
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聞き手
おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。