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#014 ダメ元で挑戦していたら、いつのまにか音楽家に【ブルガリア】/世界ニホンジン探訪~あなたはどうして海外へ?~

お名前:つねさん
ご職業:音楽家
在住地:ソフィア(2017年~)
出身地:広島

何事も試してみないとわからない

――現在は音楽家として活動されていますが、音楽はいつからされてたんですか?

高校からです。学校に吹奏楽部があって、なんかおもしろそうだなと思って入部したのがきっかけですね。大学は、はじめは一般大学に入ろうと考えてたんですが、地元の広島の音大を試しに受けてみたら、運良く受かりました。

――音大卒業後は、スイスの大学院に留学に行かれたんですよね。すごいですね。

それも試しに受けたら受かってしまったんです。当時は、とにかく音楽が好きだったので、大学卒業後は音楽関係の会社や、楽器店、楽器工場などで働けたらいいなと思っていました。そんなときに、ご縁があってスイスの大学院の先生のもとでレッスンを受けることができたんです。そこで、せっかくならとその大学院の入試も受けてみたんです。ヨーロッパ旅行もかねて。そのときは「ここで落ちれば音楽もきっぱりやめられるな」と思って行ったんです。そしたらまさかの合格でした。

――当時、音楽家になりたいという想いはあったんですか?

あまり考えてなかったですね。大学院を卒業したら日本で就職するんだろうなって思ってました。やっぱり楽器一本でプロとしてやっていけるのは、才能がある人だったり、小さい頃から続けてきた人だったりが多いので。スイスの大学院でスキルを上げつつ、あわよくば日本で吹奏楽の指導とかができたらいいな、くらいの感覚でした。

ブルガリアで演奏中のつねさん

度胸試しでオーディション巡礼

――ブルガリアとの出合いを教えてください。

大学院の終わり頃、ヨーロッパ内のオーケストラのオーディションを何カ国も受けていました。ヨーロッパにはたくさんのオケがあって、田舎の小さな街にもあるんです。私はそういう小さいオケで楽しく音楽をやる人生もおもしろいなと思っていたので、とにかく受けられるだけ受けてみようと思ったんです。ただ、この時も正直受かるとは思っていなかったので、「せっかくなら日本に帰る前にヨーロッパを色々周ろう」っていう感じでした(笑)。自分の度胸試しというか。
そしたら、ブルガリアのルセという小さな街にあるオケから合格をいただきました。それが2017年のことで、それ以来ずっとブルガリアに住んでいますね。

――最初の勤務地であるブルガリアに住み続けている理由はなんでしょうか?

気づいたら5年経ってたって感じですね。最初は「ブルガリアで永住権を得られたら、他のEUの国でも仕事してみようかな」と思っていました。ただ、想像以上にブルガリアが過ごしやすかったんです。自然も豊かですし、古い街並みが残っていて、ゆったりとした時間が流れているんです。私自身、広島の田舎出身なので肌に合ってたのかもしれません。

ブルガリアのソフィアの街並み

ブルガリアの放送交響楽団との出合い

――現在のお仕事について教えてください。

最初に勤めていたルセのオーケストラを辞めて、いまは首都ソフィアで放送交響楽団のホルンを担当してます。日本でいうNHK交響楽団のようなイメージですね。ライブ演奏主体の普通のオケとは違って、レコーディングをメインに行いながら、月に一回程度コンサートホールで演奏をしています。

――レコーディングがメインというのは特殊ですね。

ライブのコンサートはミスをしてもそのまま先に進みますが、レコーディングでは一人がミスするだけで録り直しになるんです。みんながせっかくうまく演奏していたのに、自分がミスをすると、リテイクになってしまう。そこのプレッシャーはありますね。

――胃がキリキリしますね…。ブルガリアにおけるオーケストラはどんな存在ですか? 日本との違いは感じますか?

ヨーロッパ全体に言えることですが、クラシック音楽は日本よりも浸透していますね。ブルガリアでも、どんなに小さい村や町でもオーケストラがあるので、子どもの頃から身近なものなんだと思います。実際に演奏会にはたくさんの人が訪れます。比較的年齢層は高めではありますが、若者も来てくれますよ。

――音楽が身近というのはいいですね。

そうですね。最近日本で教師をしている友人から「日本は芸術の授業をカットしていく教育方針になってきた」という話を聞いて、少し残念に思いました。もちろん学校によるとは思いますが、やっぱりクラシック音楽を含めて、芸術活動は情緒を養う上でも大切だと思います。メンタル面にもいいと思っているので、教育現場が座学ばかりにはなってほしくないなと思います。

ヨーグルトはスープ!?

――ブルガリアはヨーグルトのイメージがありますが、実際はどうですか?

ヨーグルトはもちろん一般的で、家庭料理にもよく使われます。でも、こちらにおける「ヨーグルト」はスイーツというよりスープ、もしくは飲み物です(笑)。一番ポピュラーなのは、「タラトール」っていう刻んだきゅうり入れた冷製ヨーグルトスープと、「アイリャン」という塩味ヨーグルトドリンクですね。スーパーでボトルで売ってたりもします。

――え! 飲み物が主流なんですね。全然イメージと違いました。

あと、日本だとヨーグルトって甘いイメージがあると思うんですけど、こちらでは甘いヨーグルトをあまり食べたことがないです(笑)。どちらかというと塩を入れるケースが多いので、塩っぽい味付けのヨーグルトがメジャーだと思います。

タラトールの一例(Ikonact, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)

生活になくてはならないお酒

――生活の中で感じる文化の違いはありますか?

お酒が好きな人が多いですね。ドイツはビール、ロシアはウォッカというイメージがあると思うんですが、ブルガリアだと「ラキア」です。プラムやアプリコットなどの果実や蜂蜜でつくる蒸留酒で、みんなよく飲んでますね。ブルガリアに来て間もないとき、知り合った人たちに「ラキア飲んだよ」って言うと、「わー!」って盛り上がってすごい喜んでくれました(笑)。自家製でつくっている人も多いので、パーティーに持ってきてみんなで飲んだりしてますね。あと個人差はありますが、結構みんなお酒強いですよ(笑)

――いいですね〜。ラキアはどんな飲み方が多いんですか?

基本的にはロックか、常温のストレートが多いですかね。あとは温めても美味しいです。この前ラキアのお店で、蜂蜜を少し垂らして、温めたラキアを飲ませてもらったんですけど、すごくフルーティーで飲みやすくて、美味しかったです。ブルガリアに来られる方にはぜひおすすめしたいですね。

ラキアのボトル(Public domain, via Wikimedia Commons)

日本の読者に向けて

――今後について教えてください

音楽は好きなので、このまま続けていきたいですね。あと、日本に向けてブルガリアの文化を伝えていきたいなと漠然と思っています。
ブルガリアでは、日本のグルメや文化が結構人気なんです。お寿司やラーメンなどのお店、書道や生花などの教室には、たくさん人が集まっています。一方で、日本の人たちにはブルガリアの文化はあまり伝わっていない。本当は美味しい食べ物、美しい自然や興味深い歴史がたくさんあるので、そうしたブルガリアの魅力を伝えていけたらいいなと思っています。

――最後に、ブルガリアはどんな人におすすめですか?

自然豊かな場所でスローなバケーションを過ごされたい方におすすめですね。とくに都会の喧騒に疲れた方が来られると、時間がゆっくり流れている感覚を肌で感じられると思います。田舎の方に行くと、車道をロバが歩いてることもあります。首都ソフィアも広々としていて、昔ながらの古い建物のショッピング街とか、隠れたバーやカフェも多いので、散策するととても楽しいと思います。

取材:2023年2月
写真提供:つねさん
※文中の事柄はすべてインタビュイーの発言に基づいたものです

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聞き手

おかけいじゅん
ライター、インタビュアー。
1993年東京生まれ。立命館アジア太平洋大学卒業。高校時代、初の海外渡航をきっかけに東南アジアに関心を持つ。高校卒業後、ミャンマーに住む日本人20人をひとりで探訪。大学在学中、海外在住邦人のネットワークを提供する株式会社ロコタビに入社。同社ではPR・広報を担当。世界中を旅しながら、500人以上の海外在住者と交流する。趣味は、旅先でダラダラ過ごすこと、雑多なテーマで人を探し訪ねること。

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